うちの子になれなかった猫の話

2016年12月10日(土) 2016-12-10T17:25:39+09:00 430 / 0

思い出して色々考えてしまったので、過去のお話を一つ。

私がまだ高校生だった頃のこと。
母親の勤務先に通っていた猫の飼い主さんが子猫を保護し、容態が安定するまではとうちの実家で経過観察をしていた。

キジトラのその子は、くりくりした大きい目を持ったイケメンだった。ほんの1ヶ月ほどの子猫は天真爛漫で、あっという間に我が家のアイドル猫になった。

元々1匹飼いで、女王様基質の小春は当然のように子猫に威嚇威嚇威嚇…。
手は出さないけれど、当時16歳だった小春にとって子猫ほど気を使う存在はなかったんだと思う。

それでも、1ヶ月ほど経つと不思議なことに、短時間の添い寝位なら大人しく付き合ってくれるようになったのだ。
信じられなかった。今までたくさんの子猫を保護していたけれど、こんなことは初めてだった。

もしかしたら、この子は我が家にご縁があるのかもしれないね笑。なんて冗談が飛び交い、そしてそれは家族全員の同意になっていき、本気でこの子をうちにお迎え入れようという所まで進んでいた。

けれど…その子は既に保護主さんが飼うと決めていたそうで、仕方なしその人のところへお返しすることに。

幸せになってね、家族はみんなその子に伝え、そのまま幸せになる。はずだった。

その人のところへ行った1週間後、子猫は病院に舞い戻る。
今にして思えば、飼い主さんはなにか脅迫神経症のようなものを患ってしまっていたのではないかと思う。

ともかく、なんの変調もない子猫を入院預かりさせてほしいと病院に申し入れ、本当に入院させてしまったのだ。
理由は1つ、何かあると可愛そうだから、病気になった時にいつでも見てもらえるようにというもの。

いくら病院に入れていても、24時間つきっきりというわけにはいかない。
さらに、病院には患畜が1日何件も来るのだ。
その子は母が時々こっそり我が家にお泊まりさせる以外は、スタッフのお昼休み、たった30分ほどしか人との触れ合いを体験することが出来ないでいた。

既に2頭の猫を飼育していること、重すぎる、というより半ば異常な可愛がり方を不憫に思った母は何度かそれとなくうちで引き取る提案をしたそうだ。

その度に
「私がもう２匹飼ってるからダメってことですか？」
「私にはこの子を育てる資格がないってことですか？私の何がダメなんですか？」
と声を荒げ、話にならなかった。

ただただ愛情が重いというだけで、決して虐待ではない。治療費の踏み倒しもなく、面会には来る。

病院は警察ではないし、動物看護師の母にどうこうする権限もない。

何度かよくわからない入退院をさせる間に、キラキラしていたそのこの子の瞳は段々重くなり、しまいにはグレてしまった。
母が触っても、私が呼んでも、小春が静かに隣に寄り添っても、曲がってしまった性格を明るくしてあげることはできなかったのだ。

そしてついに、事件は起きた。
仙台へ引っ越すという飼い主さんが、荷造りをしている間にその子は脱走、あっという間にどこかへ。

その子は今も見つからず、生きているのかどうかすら分からないままだ。

あの時母がとるべき選択はなんだったんだろうか。
そして、どうして飼い主さんはそんな生活を強いてしまったんだろう。

けれど悲しいかな。飼い主のいる子猫の所有権はあくまで飼い主のもの。
あからさまな虐待でなければ獣医師も、動物看護師も、警察ですらどうすることも出来ないのである。