
去年の秋、職場の人から猫の里親を探している人(Aさん)がいると聞いて里親探しのお手伝いをしました。
自家繁殖して増えてしまった猫だという話でしたが、里親探しをしているAさんご本人の猫ではなくAさんの義理のお父様(Bさん)が繁殖してしまって、ご高齢のBさんの代わりにAさんご夫婦が里親探しをすることになったそうです。
Bさんは元々雌の猫を飼育していましたが、一昨年Bさんのご友人(Cさん)から猫を預かってほしいと頼まれたそうです。
その猫はCさんのお兄さんが飼育していた猫でした。
Cさん自身も猫を飼育していましたが、何か理由があったのか自分では預からずBさんにお願いしてきたのだそうです。
Bさん宅の猫ちゃんは未避妊の雌で、預かった猫ちゃんも未去勢の雄だった為、半年の間に2度出産してしまったということでした。
事情を知ったAさんご夫婦は成猫を避妊去勢させて、去年の4月に生まれた子(当時5ケ月)3匹と7月に生まれた子(当時2ヶ月)4匹の計7匹の里親を探すことにしたのです。
ネットなどは使わず、あくまでも友人知人などの人伝で所在が明らかな人にだけ渡したいという話でした。
その後、Bさんが飼育していた猫ちゃんにエイズ陽性反応が出て、子猫たちにも母子感染の可能性があることが判明しました。
母子感染は必ずするものではないこと、生後4ヶ月くらいにならなければ偽陽性が出る可能性があること。
もし感染していても常にストレスや健康状態に気を付けて免疫力を低下しないようにすれば発症しないままでいられることもあるというお話をしました。
また、里親希望の方が確実でなくてもいいから現時点での検査を望むという場合は検査をしてもらえるようにもお願いしました。
Aさん自身が人間関係が広いことと、出張が多く遠方までお渡しに行けること。
Aさんの奥さまがご自身も里親経験が何度もあり、熱心に親族や友人関係を当たってくれたことで全ての子猫に里親を見つけることができました。
Aさんご夫婦のご希望もあり、そのうちの一匹は私が引き取りました。
ここまではとても順調に思えたのですが、私が大きな見落としをしてたことに先月気付いたのです。
母猫がエイズだと報告されたとき、エイズと白血病のコンボ検査をしていたものだと思い込んでいたこと。
他の成猫も検査済みだと思い込んでいたことです。
母猫は出産経験がなく子猫たちに虫もついていなかった為、これまで完全室内飼育をしていたことは確かだと思います。
雌猫がエイズ感染するほどの喧嘩をするということは稀なので、今回の妊娠で感染した可能性が高いと思います。
預かった雄猫が感染源でほぼ間違いないと思います。
私は例え子猫がエイズでも構わないと思っていました。
うちには既にエイズキャリアの子がいるので、キャリアだと判明してもそれも何かの巡り合わせだと思っていました。
先生と話し合って、血液検査は生後6ヶ月の去勢手術時に行うことにしました。
しかし先月結果を確認したところ、結果はFIV陰性、FeLV陽性という想定外のものだったのです。
結果を聞いたとき、何が何だか理解できずに混乱しました。
母猫はエイズしか持っていなかったはず。
先に生まれた子たちは全員がエイズも白血病も陰性だと画像つきで報告を受けたはず。
一体なぜ、どこで白血病に感染してしまったのか…。
Aさんに結果を報告して母猫の検査の確認をしたところ「エイズ検査しかしていなかったかもしれない」という回答がきました。
私は感染症の検査をするときはコンボ検査をするものだという頭があったので、エイズのみの検査だった可能性を除外していたのです。
また、雄猫も検査したものだと思い込んでしまっていました。
猫を飼育している人はエイズ、白血病のことは二大感染症として知っていますが、猫を飼育した経験がない人はエイズしか知らなかったりどちらも知らなかったりすることがある、ということを忘れていたのです。
大きなミスでした。
エイズという言葉を聞いたときに白血病の話もするべきでした。
エイズと違って白血病はウイルスが消失する場合がありますが、それは感染したのが生後どれくらいなのかによって大きく変わってきます。
1歳をすぎていれば陰転する可能性の方が高くなりますが、母子感染や生後間もない場合は高い確率で持続感染になる(ウイルスが消失しないキャリア猫となる)確率はほぼ100%と言われています。
持続感染になった場合、感染から3年以内に発症して死亡することが多いと言います。
感染後2年で63%、三年半で83%が死亡するというデータがあります。
母子感染であれば死亡率は100%と言われています。そしてその多くは2歳に満たない年齢で死亡してしまうのです。
Aさんご夫妻はご自分たちでも独自に調べてくださってとても努力してくださいました。
里親を探すというのは命を託すということです。
短命である可能性のある子をお渡しする場合、それ相応の覚悟がある方で医療費の心配もない方でなければ里親さんにも子猫にも残酷なだけです。
猫の感染症について知っていたにもかかわらず、私はどの猫にどんな検査をしたのかをきちんと確認しなかった。
今でもそれが悔やまれます。
母子感染でなければ、譲渡まで白血病キャリアの猫を隔離してもらうという手段が取れました。
母子感染であった場合、可能性は限りなく少ないけれど譲渡した生後3ヶ月の時点でインターフェロンで陰転させるという方法を試してみることもできました。
感染が認められてから4ヶ月以上経つと持続感染となります。
まだAさんからご連絡がないので他の子たちが感染しているかどうかは確認できていませんが、もし出産時や生後すぐに感染していた場合は生後半年を過ぎてしまった今、里親さんが一縷の望みをかけて陰転を試みるという可能性すら私は奪ってしまったことになるのです。
二大感染症で知られる白血病とエイズ。
エイズは発症してしまうと死に繋がりますし、発症していなくても健康な子より免疫力が低いので病気になりやすいです。
ちょっとした病気が重症化することもありますし、免疫力が低下していることが原因で老猫がかかりやすい腎臓や肝臓の病気、悪性腫瘍などに繋がることもあります。
しかし免疫力を上げる努力をすること、ストレスをかけないようにすることなどで大きな病気を防ぎ、発症や寿命を延ばすことができるのです。
エイズは少し体が弱い子という捉え方をしたりその子の個性のひとつとして受け入れることができるのは、注意すれば長生きできる可能性が十分あるからです。
白血病となるとそうはいきません。
母子感染率100%、母子感染での致死率100%、幼齢の猫の陰転の可能性が低いこと。
持続感染になってしまうと多くは5年以内に発症死亡してしまうこと。
また、発症から死亡までの期間は短くあっという間であることも多いです。
うちの子は貧血であることが分かりました。
今のところこれが白血病に関連するものなのかは分かりません。
しかし白血病になると最終的に重度の貧血になり、呼吸困難に陥ります。
猫自身もとても苦しいですし、飼い主さんも見ているのが辛くなります。
個人で保護活動を行っている人が、重度の貧血になった子を最期まで看取った後に「次に発症した子が同じ状態になったら安楽死の選択も考える」というようなことを言っていたほどです。
その人は癌の中でも惨い姿になってしまう扁平上皮癌で顔がどんどんなくなっていき腐敗臭を放つという壮絶な闘病をした子も最期まで看取った人です。
呼吸困難というのがどれだけ苦しませるものなのか今の私には想像できませんが、恐らく遠くはない将来にそういった症状と闘うであろうことを考えると胸が張り裂けそうになります。
そして何より、そういった苦しみや絶望感を里親さんに与えてしまうこと。
今回里親になってくださった方々は子猫を探していたのではなく、里親を探しているという話を聞いて引き取って下さった方ばかりです。
これから約20年一緒に過ごそうねと子猫たちを家族に迎えた人たち。
大切な家族が短命であることを知ってどれほど悲しむか…。
どうか母子感染でありませんように。
他の3匹の兄弟たちが陰性でありますように。
そう願わずにはいられません。

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