新しい事務所は同じ町内にあり、
8kmほど離れている。
ここは以前の事務所に比べ数倍広く、
スタッフの数も多い。
ただ、ニンゲンが増えてもセンパイはいない。
以前の事務所を入れていた物件も、
管理の仕事はそのまま私に残っているので、
ときどき行く。
車で、バイクで、
そのエンジン音や私の声に気づいて、
センパイが顔を出す。

最近は忙しさにかまけ、
彼女へのプレゼントを忘れてしまう。
センパイはケロっとして、何度もねだりにくるけれど…
小さな額に掌をあてる。
いつも彼女はコロコロ言って、それを歓迎してくれる。
あまりここにいる時間が取れない自分が悔しい。
また来ますよセンパイ。
そんな風に言ってバイバイする。
先日まで、ニンゲンの友人よりずっと長い時間を共にしていた。
今の私は、まるで転校生のよう。
いつかはセンパイの記憶の中の私も、薄くなってしまうのかもしれない。
そんな思いにかられ、連れて帰りたくなる。
けどそれは、しない約束だ。
今にして思えば不思議な縁。
そして不思議な時間を過ごしていたものだ。
その時間がなお愛おしい。
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