
北海の孤島・礼文島。
そこに生まれた一匹の小狸。
群れの皆に愛されることを望んだ母は、
その娘の姿を見、戦慄した。
…黒狸。
群れには言い伝えがあった。
かつての先祖たちが戦いを繰り広げた
荒ぶる海の神「レプン・カムイ」。
多数の犠牲を払い、群れの勇士が何とか鎮めたものの、
レプン・カムイはこう言い残す。
「いつか私は復活する、お前たちの中に漆黒の衣をまとって」
単なる伝説だと、皆が忘れかけていたその矢先、
群れに誕生した黒い毛の娘。
そのことが長に知れ渡るのは時間の問題だった。

渡せば必ず殺される…
狸の使える唯一の魔法「化力」でニンゲンに化け、
母は、まだ幼い娘を抱きかかえ島から逃げた。
追手は執拗に母を追う。
島を渡り、道内へ、そして関門海峡を越え、本州へ…
傷つき、疲れ切った母が最期に渡ったのが四国だった。
覚悟した彼女は最後に群れの禁忌を破る。
まだ「化力」に覚醒していない娘の心に働きかけ、
化けさせる術である。
ただしこれは、術をかけられたものの記憶すら消去してしまう。
狸はここでは有害鳥獣。このままでは追手より先に、
ニンゲンに殺されてしまうからだ。

母の化力は大したものだが、この術を完成させるには
既に気力を使い果たしていた。
狸的要素を持った猫らしいものとして、
中途半端に化けた娘を見て「まぁ、何とかなるか?」と。
そして母は絶命した。
その後、娘は一人のニンゲンと出会うことになる。
これは、この数奇な運命の子狸と、
ニンゲンと猫の織り成すヒューマンドラマである。

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