まだむうたと出会う前のお話。
ある寒い冬の日の夜、一匹の猫が猫ドアから入って来ました。
むうたが野良時代、家の中まで入って来ていたことでもわかるように、我が家は猫ドアから隣接する倉庫(今はむうたの部屋になってる)を通って玄関まで来られる構造。
その猫も玄関までやって来ました。
その子はとても大きなオス猫で、グレーのハチワレに白ソックスのとても貫禄のある猫でした。
ですが、毛並みはボロボロ。
その子の右目は白濁していて見えてないようでした。
おずおずとやって来たその子に、私の悪い癖が。
そう、ごはんをあげてしまったのです。
寒いので暖めた缶詰めとカリカリ。それにお水。
お皿を置いてやると、その子は私の姿が見えなくなるまで待って食べ始めました。
そして、食べ終わったらどこかへ帰って行きました。
次の日の夜、またその子はやって来ました。
外は寒く、雪もちらつき始めた季節。
暖かいごはんがおいしかったのでしょう。
私は次の日の仕事帰りに、その猫用の缶詰めとカリカリとミルクを買いました。
その日から毎日やって来るようになったその子。
私はその子を「ましろ」と呼ぶことに。
いったいましろはどこから来ているんだろう?
見た限り野良のようだし、近くの空き家で寝起きしてるのかな?
その疑問はすぐに解消されます。
ましろは例のむうたが脱走した際にお世話なっていた、あの外猫がたくさんいる家の一匹だったのです。
前にも書きましたが、うちからそのお宅までは直線距離で500mほど。
それも、雪の積もった田んぼを突っ切ってです。
そんな中、ましろは寒いのに毎日我が家にごはんを食べに来て、また雪の中をとぼとぼ歩いて帰っていたのです。

すぐに私は大きめの段ボールに保温材を張った即席ましろハウスを作って玄関の隅に置きました。入り口以外は段ボールで蓋をして、中には発泡スチロールを敷いて、毛布やタオルを入れてあげました。もちろんカイロも。
そして怖がりのましろのために、床下に入れるように少しだけ隙間を開けておきます。
これで、うちにいる時に来客があっても床下に逃げ込めます。
ましろは、段ボールハウスを警戒しながらも、少しずつ使ってくれるようになりました。
でも、朝になると姿が見えません。
夜中に帰っているのかもしれません。
でも、たまに泊まってくれて、我が家で朝ごはんを食べることも。
ましろはむうたのように、決して家の中までは入ってきません。
玄関までが自分のスペースだと思っているようで、寒いときは段ボールハウスに入るか、玄関脇の小縁に置いた玄関マットの上でうずくまっています。
ちまさんが
「ん?なんかかくしてるでしょ?」
って玄関をのぞいて、ましろを確認。
「ふ〜っ!う〜っ!」
って威嚇しても、ましろはじっと縮こまって決して怒りません。
誰かが家にやってきても、こっそり床下に入って待っています。
ましろは鳴かない子でした。
私を見ても、最初にシャーっと言うだけ。
でも、ごはんを出すとおずおず近寄って来ます。
私がいてもごはんを食べてくれるようにもなりました。
時にはお代わりが出て来るまで、少し下がって待つことも。
大人しくて、控えめなましろ。
見た感じ、あまり若そうには見えないましろ。ボロボロで片目も見えない。
このまま、外猫でいるより、うちに迎えてあげた方がいいのかもしれない。
私はましろが外猫として暮らしているお宅の方に事情を話しました。
そのお宅の奥さんは、私がましろにごはんをあげていることを知り、とても喜んでくださいました。
「猫が幸せなのが一番いいよね。ありがとう」とお礼まで。
少しずつましろは警戒心を解いてくれているように見えました。
私が玄関に出ると
「あ〜ん」
と鳴いてくれるように。
鳴き慣れていないのでしょう。
その声はとても小さく、ぎこちないものでした。
ましろなりに、私に何かを伝えようと必死に喉の奥から絞り出した声。
まださわれないし、近くにも行けない。
でも、ましろは少しずつ私を信用してくれるようになってきたのだと思いました。
このまま、ゆっくりでもいいから距離を縮めていければ、いつかは…
そう思っていました。
ましろがうちでごはんを食べるようになって2ヶ月ほど経った頃。
玄関で音がしたので、「ん?ましろ、きた?」と思い、のぞいて見ると、ましろではない別の猫が顔を出しました。
茶トラのオス猫。
体も大きく、精悍な顔立ちのまだ若い猫でした。
せっかく来たけど、ここはましろのえさ場だからと、私はそのオス猫を外に出しました。
まだ若く体力のありそうなその猫は、うちでなくてもごはんを探せるはず。
それでも、ましろがいない時に、そのオス猫はちょこちょこやって来るように。
私はその猫を「イケメン」と呼びました。
「イケメン、だめだよ。ましろが来るんだから。ここはイケメンのおうちじゃないよ」
何度かイケメンを追い払い、イケメンはだんだんと来なくなってきました。
そんなある日、いつものように、ましろがごはんを食べていると、しばらく姿を見せなかったイケメンが。
あ、まずい。
そう思ったのもつかの間。
オス猫同士。
顔を合わせれば、当然ケンカになります。
しばらく威嚇しあった後、イケメンがましろに飛びかかります。
ましろも果敢に受けて立ちます。
体が大きいのはましろの方。
でも、ましろは歳をとってる。
猫同士のケンカに人間が割って入れるはずもなく、私は
「ましろ、ましろっ!こらっ!イケメン、やめなさい」
と叫ぶことしかできません。
2匹は床下に入っていきます。
床下から猫たちのものすごい声と物音が聞こえてきます。
慌てて私が床下を除くと、2匹とも慌てて散り散りに走り去っていきました。
噛み合いになったらしく、床には大量の毛が落ちています。
もう、どっちの毛かわかりません。
ましろ、大丈夫かな?
走る元気があったんだから大丈夫だよね。
ましろはきっと勝ってるはず。
だって、体が大きいんだもん。
ましろはごはんたくさん食べてるし、強いんだもん。
もう少し落ち着いたら帰って来るはず。
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