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そのタマであるが、自分でドアが開けられない。
実家では、どの部屋のドアも猫が自由に開けられるように、猫おやじである父の工作で、一方からは押せば開き、反対側からは、猫の背の高さに取り付けられた猫用取っ手を引っ張れば開くようになっていて、しかもバネがついているから自動的に閉まるようになっている。ちゃめもデビンちゃんもちゃぷりも、この仕組みを使いこなしている。とくにちゃめのドアの開け方は妙技といってよく、取っ手をちょいと引っ張って自分が通り抜けられるぎりぎりの幅だけ開けて通っていく。バネの力で閉じかけたドアの隙間を、ちゃめの尻尾の最後がするりと抜けていく様を見ると、いつも感心してしまう。
ところがタマは、この猫仕様のドアを開けることが出来ない。引くのはもちろん、押す方は割合に簡単だと思うのだけれど、もともとがやる気のない猫だから、学習する気も起こらないのかちっとも覚えない。
もっとも、ドアを開けるのはポチも出来なかった。まだ寒かった頃、居間から台所へ通じるドアを開けたら、台所にいたポチとタマがドアの前に並んで座っていたことがある。暖かい居間に行きたいのにドアを開けることができないから、誰かが開けてくれるのを待っていたのである。大の男二匹が困って、並んで座っている姿はなんだか可笑しかった。
そのタマに、父と母が、ドアの開け方を教えようと試みた。ドアのこちら側で父がタマの好きな竹輪をちらつかせ、向こう側で母がタマにドアを押して開けさせようとしたのだけれど、ちっとも埒があかない。しまいに、ドアの隙間から手を伸ばして竹輪を引っ掛けようとしたタマの爪に、父が指を引っかかれて、タマの特訓は終わりになった。
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