
(前回の続き)
デビンちゃんも、子猫の頃、まったく同じ、この駐車場に捨てられていたのだった。季節もほぼ同じ、1999年の5月26日である。
にゃーお、にゃーおと鳴く声が聞こえるから、そのときは母と一緒に見に行ったら、小さな白黒の子猫が、やっぱり同じように走って逃げていった。
捕まらないから、家の裏庭の、駐車場に接するあたりに缶詰の餌を皿に入れておいたら、何度か来て食べていたけれど、一日中、にゃーお、にゃーおと鳴いている声が、だんだん移動していって、やがて、どこかへ行ってしまった。
食べるものがあるのに、それすらも捨てて、引き離されたのであろう母猫を探しに行ってしまったのだと思う。子猫だったデビンちゃんの、そのときの不安や、お母さんを恋しく思う気持ちを想像したら、たまらなく心が締めつけられるような気がする。
そして、デビンちゃんがふたたび姿を現したのは、それから約二ヵ月後の7月18日だった。骨と皮ばかりに痩せていた。
放っておけば餓死してしまうのは明らかであると思われた。保護しようということになったが、いまだ人には馴れていない。捕まえられるチャンスは一度だけ。失敗すれば、もう人の前に姿を現さないかもしれない。
父が捕獲の大役を担うことになって、隣家の軒下で疲れ果てたように座るデビンちゃんに、捕獲用の捕虫網を後ろ手に隠して、じりじりと近づいていった。
警戒して、少し腰を浮かしたデビンちゃんに、父が安心させようと「にゃあ」と呼びかけると、デビンちゃんも「にゃー」と応えた。みんな、遠巻きにして、固唾を飲んで見守っている。
ぱっと捕虫網が翻って、全員が駆け寄った。白い網の中で、デビンちゃんが責めるような鋭い目をしてこっちを睨んでいた。
父が捕まえられるほどに弱っていたともいえるけれど、「これを失敗したらもうこの猫は死んでしまうと思ってものすごく緊張した」と父は後から言っていた。
最初は網の中でもがいていたデビンちゃんだが、すぐに観念したのか大人しくなった。家に連れて帰って、すぐに缶詰の餌をやると、一生懸命食べた。そして安心したのか、撫でるとうれしそうに目を細めて、ごろごろと喉を鳴らした。
安心できる場所だとわかったのか、デビンちゃんはすぐに懐いた。がりがりに痩せている上に、疥癬に罹っていたから、外の猫とは隔離して、しばらく父の部屋で暮らしていた。
あるとき、部屋の床の上を一匹の小さな蜘蛛が這った。それを見たデビンちゃんは、普段からは想像できないようなすばやい動きで蜘蛛を捕まえて、あっというまに食べてしまったという。十分にキャットフードをあげているのに、2ヶ月の飢餓生活で身についたくせがまだ抜けないようであった。そんなデビンちゃんを見ると憐れを催されると父は言っていた。
(デビンちゃんの話は次回まで続きます。今しばらくお付き合いください)
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