あみじゃが

岡山県 40代 女性 ブロック ミュート

とっても気位の高いキジトラの女の子と、一年の餌やりの末保護した甘えん坊の男の子と暮らしています。 野良さんのTNRをせっせと孤独に行ってます。 猫が大好きで、たくさんの猫さんと触れ合いたいので...

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ぼくがぼくであるために 〜王子外伝 前編〜
2022年2月3日(木) 403 / 8

ぼくははじめはお父さんの中にいた。

小さな小さな種だったぼくは、ほかの兄弟と一緒だった。

ぼくはまだお外の世界を知らなかったけど、お父さんのことはよくわかった。

お父さんはつよくて、かっこよくて、やさしかった。

お父さんはお外の世界でいつも戦ってた。

お父さんはぼくのあこがれだ。

お外にでたら、ぼくもお父さんみたいなつよい男になるんだ。

お父さんは「ふきまる」ってよばれてた。

お父さんは「ふきまる」なんだ。









しばらくすると、ぼくはお父さんの中から移動して、お母さんの中に入った。

まだまだ小さいけど、少しずつぼくの形ができてきた。

お母さんはたくさんごはんを食べて、ぼくたち兄弟にたくさんえいようをくれた。

お母さんはとってもやさしいんだ。

いつもぼくたちのことをかんがえてくれてるのが伝わってくるんだ。

お母さんは「ビスコ」ってよばれてた。

お母さんは「ビスコ」なんだ。

お母さんの中にいると、ぼくはすごく心地よくて安心できたんだ。

もう、ずっとお母さんの中にいたいな。








でも、ある日、ぼくたち兄弟は、ゆうきを出してお母さんの中からお外の世界に出たんだ。


お外の世界は、お母さんの中とちがってすごくさむくて、こわくて、ふあんで、お母さんの顔も見えないまっくらな世界で、ぼくらはたくさんお母さんを呼んだんだ。

そしたらお母さんがぼくたちをそっと抱いて、ぼくたちの体をたくさんなめてくれたんだ。

お母さんだ。

お母さんのにおいだ。

お母さん、ぼく、お外にでたよ。

お母さん、ぼく、早くお母さんの顔見たいな。

お母さんはぼくたちにたくさんおっぱいのませてくれたよ。

お母さんのおっぱいおいしいな。

お母さんのだっこあったかいな。








お母さんとぼくらのほかに、お姉ちゃんがいた。

お姉ちゃんはふわふわでやわらかくて、ぼくらはすぐにお姉ちゃんをすきになった。

お姉ちゃんはお母さんのにおいとおんなじにおいがする。

お姉ちゃん、だいすき。

お姉ちゃんは「がらしゃ」ってよばれてた。

お姉ちゃんは「がらしゃ」なんだ。






ぼくたちはお母さんのおっぱいをたくさんのんで、目も見えるようになったよ。

はじめて見るお母さんのかお。

お母さんはすごくびじんだ。

それにとってもやさしい目をしてる。

お姉ちゃんのかおも見える。

お姉ちゃんはまあるくてふわふわのおかお。

お姉ちゃんもすごくびじんだ。







ぼくらは兄弟たちのかおも見た。

ぼくと兄弟たちはそれぞれちがうもようをしてた。

お母さんににてる子もいるし、そうじゃない子もいる。

ぼくはお母さんににてるのかな?

それとも、まだ会ったことがないお父さんににてるのかな?

でもみんな、どこかにてる。

ぼくらは兄弟だから。

ぼくら兄弟、これからちからを合わせてりっぱなおとなになるんだ。

お父さんみたいに、つよくてカッコいいおとなになれるかな?











ぼくらが少しおおきくなって、お母さんはあたらしいおうちにつれてきてくれた。

「今日からここがおうちよ。
あなたたちはもうおっぱいじゃなくて、ごはんを食べるのよ。
ここにいれば、二本足がごはんをもって来てくれるからね。
でもね、ごはんをくれるからって、二本足に気を許してはダメよ。
あいつらはあなたたちを狙っているんだから。
まだ小さいあなたちちは、二本足にさらわれてしまうからね。
そんなことになったら、お母さん、悲しくて泣いてしまうわ。
だからね、二本足が来たら、ごはんを置いて出て行くまで、決して姿を見られてはダメよ」

お母さんが言った。

お母さんをかなしませたくないな。

よし、ぜったい二本足につかまらないようにするぞ。









ぼくたちはお母さんのおっぱいをたくさん飲んで、お外をたんけんできるくらいに大きくなった。


よし。

たくさんたんけんして、お父さんみたいにつよくなるぞ。







お外に行くとお父さんがあいにきてくれた。




これがお父さんか。

やっぱりお父さんはかっこいいや。

お父さんはぼくのヒーローだ。




お母さんもお父さんのことが大好きみたいだ。

ぼくたちもお父さんのことが大好きになった。

お父さん、ぼくたち、がんばってお父さんみたいにつよくなるよ。

ゆうきのある、つよい男になるんだ!









ぼくたちはいつでもお母さんが大好きだ。

お母さんもぼくたちのことが大好きでしょ?





でもね、気になっちゃうんだ。


お母さんは、ぼくたち3人の中で、どの子がいちばん好きなんだろう?





あの子はお母さんにもようがにてる。


あの子はお父さんにそっくりだ。


でもぼくは?


ぼくはお母さん、お父さん、どっちににてるのかな?


お母さんはぼくよりも、自分やお父さんににてる他の子の方が好きなんじゃないのかな?


お母さんに聞いてみようか?


でも、ほかの子がいちばんだったら…


知りたいけど、聞くのがこわいな…








そんな時、お母さんににてるあの子が言った。

「ねえねえ、お母さんのいちばんはぼくなんだよ」

え…?

やっぱりぼくじゃなかったんだ…


そしたら、お父さんにそっくりなあの子が言った。

「ちがうよ!
お母さんはぼくがいちばんかわいいって言ったよ」


え…?

どういうこと?

でも、やっぱりぼくがいちばんじゃないんだ…


「そんなのちがう!
だってお母さんは、お母さんににてるぼくがいちばんかわいいって言ったもん!」

「ちがうよ!
お父さんにそっくりなぼくがかわいいんだって、お母さん言ったよ!
みんながねてる時に、こっそり聞いたんだ!」




どうして?

お母さんのいちばんはどっちの子?

お母さん。

お母さん。

ふたりがけんかしてる。

ぼくはどうしたらいいの?










しばらくして、お母さんがおそとから帰ってきた。


「お母さん、ぼくとその子、どっちがいちばんなの?
ぼくだって言ったよね?」

「ぼくでしょ、お母さん!
だってぼくはお父さんににてるでしょ?」




お母さんのいちばんはぼくじゃないんだ…

じゃあなんで、ふたりにいちばんって言ったの?

いちばんはひとりでしょ?






「あらあら。
ふたりとも内緒って言ったのに」


「お母さん。
どっちが好きなの?」


「お母さんはね、みんないちばんなのよ」


「いちばんはひとりだよ。
変だよ、お母さん」


「あなたはお母さんにそっくりでとてもかわいいわ。
あなたはお父さんにそっくりだものね」


「そうだよ!
ぼくら、どっちかがお母さんのいちばんでしょ?」


やっぱり、どっちにもにてないぼくはお母さんのいちばんにはなれないんだ。



お母さんがぼくに言った。

「それにね、あなたの毛並みはお母さん譲りだし、キリッとした目はお父さん譲りね。
お母さんとお父さんのいいところを上手に受け継いだのね」


え…?

ぼくはお父さんとお母さん、どっちにもにてるの?


「お母さんはね、あなたたちそれぞれがいちばんなのよ。
みんなそれぞれいいところがあるんですもの。
みんな、お母さんのいちばんなのよ」



よくわからないけど、 ぼくもお母さんのいちばんってこと?



「それにしても、他の子はみんなお母さんにいちばんを聞きにきたのに、どうしてあなたは聞きに来なかったの?」


それは…

だって…


「お母さん、あなたが聞きにきてくれるの、楽しみに待ってたのよ」


そうなの?
お母さん、待っててくれたの?


「お母さんのいちばんか、聞きたくなかったの?」


ちがうよ、お母さん。

ぼくだって聞きたかった。

でもね、もしぼくがいちばんじゃなかったらって、すごくこわかったんだ…


「怖かった?」


ああ…

ぼくはよわむしだって、お母さんにあきれられちゃう…

お父さんみたいなつよい男になれないって…



「あなたって子は…」

やっぱり、ぼく、よわむしなんだ…





「どうしてそんなに勇気があるの?」


え…?

だって、ぼく、こわかったんだよ。


「怖いことをちゃんと怖いって言えるのは、とても勇気がいることなのよ。
あなたは、お父さんの勇敢なところをちゃんと受け継いでいるのね。
お母さん、嬉しいわ」


ぼくがゆうかん?
お父さんみたいに?

ぼくは、お父さんみたいになれるの?


「きっとあなたは、みんなを思いやれる、とても勇敢で優しい男の子になるわ」



そっか。

ぼくは、ゆうかんでやさしいんだ。

お母さん、ぼく、がんばるよ。








春になってお外もぽかぽかあたたかくなってきた。


ぼくたちは今までしらなかったお外のせかいをたくさんたんけんしたんだ。


すごくたのしいな。


すごくたのしいね。









ぼくたちが追いかけっこしてあそんでると、お父さんじゃない大きなおじさんもやってきた。


そのおじさんは、お父さんともお母さんともちがうもようだった。


それにとっても大きくて、ぼくたちはびっくりしたんだ。


そのおじさんには「おうち」があって、二本足のママもいるんだってお母さんがおしえてくれた。


おじさんは「むうた」っていうんだって。


おじさんは「むうた」なんだ。









むうおじさんはとってもやさしくて、ぼくたちはすぐにむうおじさんのことを好きになった。


むうおじさんは、ぼくたちがお外であそんでると、毎日やってきて、ぼくたちとおいかけっこしてあそんでくれた。


むうおじさん、いつもあそんでくれてありがとう。


















ぼくたちはたくさんたべて、お母さんのおっぱいももういらないくらいどんどん大きくなった。





でも、お外がだんだん暑くなってきた頃、気づいたらぼくのきょうだいはいなくなって、ぼくはがらしゃお姉ちゃんとふたりぼっちになってたんだ。













ぼくのきょうだいがどこにいったのかわからないけど、がらしゃお姉ちゃんはいつもぼくと一緒にいてくれたんだ。








もちろん、お母さんやお父さんも時々ぼくに会いにきてくれた。




それに、むうおじさんもぼくとたくさんあそんでくれたから、ぼくはちっともさみしくなかったんだ。



ぼくはどんどん大きくなって、どんどんかわいくなったから、たまにむうおじさんのおうちの中から、二本足がいやらしい目つきでぼくを見てたけど、お母さんの言いつけ通り、ぼくは二本足にはぜったい近寄らなかったんだ。



















ぼくはもうひとりでもりっぱにやっていけるような気がしたよ。








だってもう、すっかり体も大きくなって、りっぱなおとなでしょ?















むうおじさんも、ぼくはりっぱなおとなだってみとめてくれたんだ。









うん。
むうおじさんもなかなかりっぱだよ。














ぼくはもうおとなのおとことして、やっていけるのかな?


だってぼくは、ゆうかんでやさしくて、かわいいからね。


お父さんみたいに、つよいボスになるんだ。


きっとやっていける。


だってぼく、サイコーにかわいいもの。


きっとぼくは、とくべつかわいいんだ。


ぼくはなんでもできる!


そう思ってた。










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