がーちゃんのこと…2

ボクのママはノラネコだ。ボクのウチにはフカフカのおふとんもないし、風をさえぎる壁もないけど、へっちゃらだ。今は夏、夜の風も心地よい。そして、ボクにはママがいる。一緒に生まれた兄弟達も。ボクたちはお互いにふとんになって、ママのおなかに潜り込む。柔らかくてあったかい。ボクたちはママのおっぱいを飲んでスクスクと育った。秋の虫たちがうるさくなった頃、ママは、どこかに行って食べ物を持って来てくれた。トカゲやネズミ…時々は小鳥なんかも!仲良く食べるのよ!ってママは言うけど、分け合うなんてできない。ぼくらは競い合って獲物を食べた。取ったり取られたり…もうママのおっぱいだけじゃ足りないから、みんな必死だ。そうして、ボクたちは一緒に育った。遊んだりケンカをしたり。ママはボクたちを優しく舐める。ボクたちはママが大好きだ。こんな当たり前のことがずっと続くと思っていた。あの日までは。
風が冷たく感じるようになったある日、雨が降った。ボクたちのウチに屋根はあったけど、雨は容赦なく吹き込んできた。何日も…。お腹がすいたボクたちはママのおっぱいを吸うけれどおっぱいはでない。ママも何日も食べていないんだから。やっと雨がやんだ日、ママはご飯を探しに行く。ボクたちは身体を寄せ合ってママを待った。クシュン　誰かが一つくしゃみをした。
ママが持って来た獲物をボクたちは、奪い合って食べた。みんなお腹が、空いていたから、ママは何度も出かけて行った。1度目のご飯をいっぱい食べた子もまだまだお腹が空いているから２度目のご飯も奪い合う。身体が大きい分お腹も空くのかな…しょうがない。ボクのお腹はいつまでたっても満たされなかった。奪い合いに負けたボクたちにママがおっぱいをくれるけど、鼻が苦しくてうまく飲めなかった。
晴れの日が何日か続いて少しだけ暖かくなったけど、ボクたちのくしゃみはとまらなかった。鼻が苦しくて目もかゆい。ママ〜目が開かないよ～ママはボクたちを順番に舐めてくれた。
その日の夜、突然ママは言った。お引越しするわよ!ボクたちには突然だったけど、ママは前から決めていたのかもしれない。そんな言い方だった。ボクたちはみんな疲れていたし動きたくなかったけれど、ママの言うことは絶対だ。ハーイにゃ❢身体の大きな子たちが元気に返事をした。ボクだって負けるもんか、ハーイがぁ❢ママは半分塞がったボクの目を舐めながら、言った　いい子ね、必ずついてくるのよ。そして、返事をしなかった子たちに　あなたたちはここでゆっくりお休み。　ママは兄弟たちを丁寧に丁寧に舐めた。いつもより長く優しく。そして、ママはウチを出た。ボクたちは慌ててママの後を追う。残された兄弟たちが何か言ったけど、ぼくらは振り返らなかった。
ママの足は速い。明るくなる前に次のウチに着かないといけないから。でも、ボクの目はすぐに見えなくなる。ママ〜❢ボクが呼ぶとママは立ち止まってボクの目を舐めてくれる。そして、また出発。何回目かボクがママを呼んだ時、そこは小さな草むらだった。ママがボクに言った。あなたはここで少しお休みしなさい。元気になったらママの所に来るのよ。いい子ね。ママはボクを丁寧に舐めた。ママは優しい。ママはあったかい。疲れていたボクは少しトロンとして草の中に座り込んだ。ママは優しく舐めて…大好きよ…そして、ボクを置いて出発した。