『ないる』が我が家にやって来てから、起きている間は出来るだけケージから抱き上げ、あやすようにした。『ないる』の悲しげな声は、出来るだけ聞きたくない。
この日も、ケージ外に出たがる『ないる』を抱えて、部屋のあちこちを見せに回る。
時々、
「降ろして、自分で歩きたいの!」
という風に鳴くが、歩かせるわけにはいかない。退院から1週間も経っていない。
「ないるは、アンヨが折れてるのよ。痛い痛いなんだよ~」
と鳴く度に歌うように答える。←当の本人は、神経が切れているのでまったく痛みは感じていない。
『ないる』が満足した風に見えたので、そのまま膝に抱えてソファーに座ると、そのうち眠ってしまった。
ないるの寝顔を見ていると、心が癒される。よくぞ家に来てくれた! 『ないる』に感謝する。
いつものように、ニュースを見たり猫の飼い方を調べたり・・。しばらくすると、トイレに行きたくなってきた。
『ないる』はピクリとも動かない。
「今なら、起きないかも・・」
そうっと膝からソファーに移す。寝てる・・。
よしっ、今だ!
慌てて用を済まし居間に帰ってくると、『ないる』が起きてる! ソファーから降りようとしている!!
心の中で「ぎゃー!!!」と叫びながら走りよるが、『ないる』は跳び下りた。
「ゴツン」とフローリングにぶつかる音が響いた。
「ないる! 頭、ゴツンした? 大丈夫? 怪我は、怪我は!!」
猫を怖がらせてはいけない! 出来るだけ大きな声を出さないように呼びかけ、身体をあちこち撫でまくる。『ないる』は私の焦ってる様子が伝わったのか、緊張気味。
(頭打ったんだぞ、脳挫傷を起こしたらどうする! 脳溢血は・・血管が詰まるんだから関係ないのか・・)
ぐるぐる考える。
(今すぐ病院へ行った方が良いのか? いや、待て。落ちつけ、私! まずは様子を見るんだ、現状把握だ!)
「打ったの、頭だよね。良い音したぞ。どれどれ、コブは出来てないのかな? ・・そうだ、脚、折れた脚!!」
抱きかかえて脚もジッと観察してみる。そっと触ってみる。ギブスがずれた様子はない。
(脳内出血の場合、後から吐いたり様子がおかしくなるんだよな・・)
気を緩めてはいけない。目覚めた『ないる』に餌を与えて、食べてる様子をちらちらと横目で観察する。←猫はジッと見つめられるのを嫌うことを学習したので
全部食べ終わり、食べ足りないのか「みゃあ~ん」と鳴いた。
御代りも全部平らげ、ケージの中に入れたボールにじゃれつき始めた。
(大丈夫だよな・・)
まだ少し不安ながら、胸を撫で下ろす。
今日、また新たに一つ学んだ。猫は決して油断してはいけない!

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