大人への扉

その出来事は突然起こった。朝方午前四時、アタマずきん（書き手、以下ずきん）は妙な音に目が覚めた。“グヌ～～～　グヌガ～～～”最初は鳥の鳴き声のように聞こえたが、何か違う。そもそも我が家に鳥さんはいない。ずきんはベッドから起き上がり、暗闇の中の奇妙な声の方へと恐る恐る足を運んだ。そして“エイッ”思い切って電気をつけた！すると、そこには・・・・お尻を突き出したナラがいた・・・

“さあ！どうぞ！！”そんな風に言っているかのようだ。「え？ナラさん？何が？」しばらく動揺していたずきんだったが、アタマの悪いずきんの頭上で“ピカン！”と電球が光り、それが発情期だということにやっと気づいたのだった。ナラはとうとう大人への扉を開けてしまったのだ。ナラは生後約６か月。発情期がきてもおかしくない年頃。実は、この事に関してずきんは頭を悩ませていた。ある獣医さんによると、初の発情期を迎える前に避妊手術をした方が乳癌などのリスクを抑えられるのだという。ナラもシンバも病気をせず、健康で長生きしてほしい。だから未然に病気を防ぐためにも、やれることはなるべくやってやりたいというのがずきんの心情だ。

ずきんの通っている動物病院では、生後６か月から避妊手術ができるのだが、実はナラはあまり体が丈夫ではない。産まれた時から体が弱い上に目が悪く、片目の眼球にはうっすらと白い膜が張っている。しばらく病院に通って、少し良くはなったものの、膜は張ったままで、どこまで見えてるのかわからない。成長もとても遅く、なかなか大きくなってくれない。シンバとナラはほぼ同じ時期に産まれているが、シンバの体重はナラの二倍近くある。声帯にも問題があるのか泣くことができない。（グルグルは言える。）こんな子が避妊手術に耐えられるだろうか？もし全身麻酔から目を覚まさず逝ってしまったら？悩んだ末にずきんが出した決断は“体重が十分に増えるまで待つ”だった。しかし、体重が十分に増える前にこの日がきてしまった。

慌てて獣医さんに相談した所、ナラの手術をすることになった。決行は次の日。この日を逃すと次は来週になってしまう。発情期のせいか、なかなかご飯を食べてくれない。一週間待っている間にまた体重が減ってしまうのも怖い。何よりも、声が出ないのに本能のままに無理に泣き、満たされない欲求はストレスになり、ナラ自身もどうしていいのかわからなく辛いのだ。ずきんがナラを呼んだり、シンバが泣くと反応し、お尻を突き出し、後ろ足をバタバタと足踏みする。なんとかしてシンバをゲットしようとアピールしまくるが、シンバはビビッて逃げてしまう。（後にシンバはナラを心配してか、ナラの毛づくろいを始める）

ご飯も食べられないし、そんなのが１週間続くなんてかわいそうだ。「明日お医者さんに行って治してもらおうね。もう大丈夫だからね」本当は不安と緊張でいっぱいのずきんだったが、やさしくナラを撫でてなだめた。やっぱりお尻を突き出しまくって精いっぱい返事をするナラ。ああ・・・なんていい子なんや。思わず涙がこぼれそうになるずきんであった。