だって、お母さんが、家から出してくれなくなったんだ。
お友達にも、ガラス越しにしか会えないし、
虫も鳥も家の中にはいない。
陽だまりに吹く、気持のいい風も、もうふかない。

ご飯を食べても美味しくないし、抱っこなんかされたくないし
外を見ると悲しくなった。
僕は毎日、毎日、なんだか、つまんなかったんだ。
ある日、僕の家に灰色の毛糸の玉がやってきた。
毛糸玉は、ミューミューって鳴いて、僕の方にやってくる。
これなんだ?? ボクはそばによらないことにした。
毛糸玉の名前は「空豆」、毎日鳴いてばかりいる。
「お母さん。。この子なにか言っているよ」
空は、ドンドン大きくなって、きかんぼの悪い子になった。
ティッシュは箱から全部出しちゃうし、
お父さんのギターカバーで爪を研ぐし、
テーブルの上のマグロのお刺身も食べちゃう。
「景はこんな事しなかったのに、困った子ネェ」
お母さんに怒られたって平気だ。ミャーミャーミャーと言い返してる。
ボクのご飯を先に食べる。
ボクの爪とぎの籠にも先に入る。
ボクのお気に入りの椅子の上にも先に座る。
ボクのおもちゃのダンボールだって独り占めする。
お昼寝しようとすると、しっぽに飛び掛ってくる。
耳を噛む。背中に乗る。遊んで遊んでと周りを飛び跳ねる。

「ねぇ。お母さん。なんだかボク忙しい。ゆっくりお昼寝したいなぁ」
空は小さいから、時々、どこかに隠れていなくなる。
そんな時は、皆、心配して探すんだ。でも、ボクは知っているよ。
ゴミ箱の中、箪笥の後ろ、パソコンの裏。
「空。お母さんが、心配するから出ておいで。ほら、ここで寝るよ」
空がいないと皆が心配するから、ボクは一緒にいてやる事にした。
ついでに毛づくろいもしてやろう。
ほら。猫はこうやって毛を綺麗にするんだぜ。

「ねぇ。お母さん。ボクつまんなくない。だって忙しいんだ」
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