その間、むうたはやはり毎日やってきて、少しずつでもごはんを食べようと頑張っていました。
元々浅い傷だったようで、範囲は広くても傷自体はふさがって、少しずつ良くなってきていました。
むうたの生きようとする力が、傷を治していったのだと思います。
夏の終わり、母が何度目かの入院となりました。
肺炎を起こしたため、とっくに抗ガン剤は使えなくなっており、モルヒネなどの緩和治療に切り替えていました。
食事は摂れたり摂れなかったり。
お医者様からは
「これが最後の入院になるかもしれません」
と言われていましたが、それでも母は入院当日、行ったことないと言っていた病院近くの大きな滝を見に行くと言いました。
その日は特に暑く、母の乗った車椅子を押して、一の滝、二の滝と坂を登り、滝の麓までなんとかたどり着きました。
初めて見た大きな滝。
車椅子を押して坂を3kmも登って汗だくの私に
「ずっと来てみたかったんだ。ありがとう」
と感謝の言葉をかけてくれました。
そしておやつを買って病院へ。
母の入院を機に、私は仕事の在宅申請を出しました。
収入は半分以下になりますが、それでも時間の有効活用はできます。
昼、病院に行って、夜は家で仕事という生活。
秋になり、徐々に夜が肌寒くなってきました。
ある日、家に帰ってみると、閉めたと思っていた居間の引戸が少し開いています。
「あれ?閉めるの忘れたかな?」
と思いながら居間に入ると、明らかにむうたのにおいが…
強烈な残り香…
うちには、ちまさんのための猫ドアがあり、どうやらそこから入り、居間の引戸を開けて入ってきたようです。
ちまさんは、自分で戸を開けるなんてことはしないため(戸なんて自分で開けるものじゃなく、一声鳴けば人間が開ける自動ドアだと思ってますから)
「器用な猫だな。もしかして以前人間に飼われていたのかも」とは思いましたが、それほど深く考えていませんでした。
ですが、その日からむうたは毎日、勝手に家の中に入って来るようになったのです。

私がいない時も、そして夜も明らかに居間で寝ているようでした。
人間の家の中があったかいのを知っているのです。
朝、私が起きる前に出て行っているようですが、においでいたのがわかるのです。
もちろん、部屋も汚れるし、毛もつく。
何より、病気を持っていたら、ちまさんへの影響が心配です。
「家への浸入は避けられない。せめて病院で検査とワクチンだけは」
私はやっとむうたを捕まえてる気になったのです。
むうたと私の捕獲合戦が始まりました。
最近のコメント