
実家のトラ猫ネロは少々手癖の悪いところがあって、ちょっと目を放すとすぐにお膳の上に登って魚や鶏肉などをつまみ食いしてしまうので、実家の台所からは、しょっちゅうネロを叱る母の声が聞こえていた。
そのネロが去年の夏に死んで、いちいちテーブルの上に目を光らせておかなくてもよくなったから台所は平穏になった。なんだか張り合いがなくて寂しいと母は言っていたが、実際、テーブルの上にあがって盗み食いをするような猫はネロのほかにはいなかったので、焼いた秋刀魚の上にふたをして重しをしてというようなことをしなくても、そのまま置いて部屋を離れたって、大丈夫なのであった。
それが先日、台所からかたこという物音が聞こえてきたので、誰かと思ってドアを開けて見たら、ちょうどテーブルの上の鱈子を皿から引きずり降ろしたところのちゃめと目が合った。私が「あ!」と言うと、あわててテーブルから降りて、ついで台所に入ってきた母が鱈子をちゃめの鼻先に示し「これ食べたの」と詰問すると、さっと自分でドアを押し開けて、こそこそと台所から退散していったのだが、その数日あとにも、また秋刀魚の尻尾をくわえてひっぱっているところを押さえられた。
トラ猫ネロの意志は、やはりトラ猫のちゃめにしっかりと受け継がれているらしい。
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