猫飼いさんなら誰もが知っている幸せな出来事だ。
でも今朝は違った。
私は毎日朝食後に風呂掃除をする。
今朝も日課の風呂掃除を終え、浴室の扉を開けて目の前のバスマットに右足を踏み出した。
その瞬間、
扉のすぐ左にある洗濯機の上から何かが転げ落ちた。
<ドㇲン> 『ギャーッ』
私の右足がハルのカギ尻尾を踏んだのだ。
ハルは甘えるのが下手で抱っこも嫌い、でも面倒見のいい妹思いの優しい子だ。
そんなハルの尻尾を踏んでしまったのだ。
体重70キロの私が…。
ハルは脱兎の如く駆け出し、リビングの方へ向かった。
「ハルごめん、いけるん?」
足を拭くのも忘れハルの後を追った。
猫は元来、体の痛みや不調を我慢して、敵に弱みを晒さない動物だと聞いた。
でも今は少しでも早く尻尾の状態を確認する必要がある。
骨折などしていたら大変だ。
部屋を見回すと、ハルお気に入りの冷蔵庫の上でベッドに丸まっていた。
「ハルごめんな、出待ちしてくれてたん気ぃつかんかった。」
「ハル~、ちょっと下りてきて尻尾見せてみぃ。」
いつもは話しかけたら、『ニャー』と答えてくれるハルが顔さえ上げてくれない。
ここは無理にでも下ろして確認すべきか、それとも興奮が冷めるまで静観すべきか、
迷った挙句、少し離れたリビングから静観することにした。
普段通りならハナとかけっこをしたり、パトロールのため窓際に陣取る時間だ。
絶対怒ってる、嫌われてしもた、ご飯でつれる時間じゃないし。
いろんな不安が頭をよぎった。
私は自分の気持ちを誤魔化すように、無理に普段通りの動きをしながら事態の好転を待った。
<案ずるより産むが易し>
私が洗濯物を干すためリビングの窓を開けた瞬間、キャットウォークを勢いよく走る音が聞こえた。
振り返ると、ハルがキャットウォークからキャットタワーを伝って下りてくるところだった。
私は急いで窓を閉め、ハルの脱走を防いだ。
普段洗濯物を干すときは、ハルとハナを寝室に移動させ、脱走を予防する。
今日は不幸な出待ちの件があり、ハルには触れずハナだけを移動させていたのだ。
ハルはそんな私の気持ちを忖度せず、もう少しで外に出れそうだったのに、というような態度で
窓際にちょこんと座り、さも名残惜しそうに外の世界を見つめていた。
私は安心と驚きがごちゃ混ぜになった心地で声もかけられず、ハルの後姿を眺めた。
そんなハルのカギ尻尾が、いつもと違う方向に曲がっているように見えた。
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