私のアイコンにもなっている黒猫は、2002年に私が保護した海苔という名の雌猫です。海苔は私にとって猫の飼い方や医療知識を教えてくれた初めての猫です。
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こんな事をネコジルシで書くのはどうかと思いますが、それまで私は猫があまり好きではありませんでした。汚い野良猫には見たくも触りたくもないし、そもそも猫は何を考えているのかイマイチ分からないし、表情が分かりやすい犬の方が遥かに可愛い。人に対して従順で、何を考えているかわかりやすい犬の方が一緒に居て楽しいし思う、猫と犬では犬の方が好きだ、という完全に犬派の人間でした。
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そんな犬派の私が、海苔を保護したのは全くの偶然でした。当時まだ幼かった子供と買い物帰りに近所の公園に行った時に、生後2か月程の大きさの白い子猫に出会いました。おなかを空かせているようだったので、あろう事か私は買い物袋から竹輪を取り出し、その子猫に与えたのです。今では考えられない行為ですが、子猫は必死で竹輪に食らいつき、その様子を見ていた子供が抱っこして連れて帰ると聞かないので、まあ猫1匹くらいなら。と実に安易な考えで仕方なしに白猫を連れ帰ろうとした時、背後から大声で鳴きながら「私も連れて行ってー!!」とばかりに走ってきた、白猫と同じ大きさくらいの子猫が海苔でした。
竹輪が原因だったとは思いませんが、その後、白猫は2週間程でFIP(伝染性腹膜炎、猫パルボ)で亡くなってしまい、兄妹猫と思われた海苔にも一時疑いが出ましたが、幸い発症には至らずその後無事に成長していきました。
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若いころの海苔は表情が豊かでとてもお喋りで、猫の知識が乏しい私にとっては猫らしからぬ猫でした。
家族以外に抱っこされるのは苦手でしたが、我が家に来るお客様の鞄や靴の匂いをしつこく嗅いでチェックしたり、お気に入りの玩具を投げると走って追いかけ手元に持ってくる。それはまるで投げたボールを追いかけた犬が、飼い主の手元に持って来る行為と同じように私には見えました。
「こんな猫もいるんだな」
一緒に生活している中で私の猫に対する考え方を変えたと言っても過言ではありません。
一方、避妊手術とワクチン、定期的な健康診断、完全室内飼い。何も知らなかった私に猫の飼育の全てを教えてくれたのは当時開院したばかりの小さな動物病院の院長先生でした。とても親身になって教えてくれましたし、その後の保護猫の事でも沢山お世話になりました。今では移転と新築をして獣医師も増え、大阪府外からも患者が訪れる程のとても有名な病院です。
このような経緯を経て、我が家は一気に猫派の家になりました。
海苔を筆頭にして、私や娘や旦那が持ち込んだ行き場のない子猫、ネットの掲示板で見かけた安楽死寸前の老猫を引き取り、里子に出せる子は里子に出し、看取る子は看取り、を繰り返してきました。
そしてその間に海苔は我が家に来るどんな猫にも優しく献身的で、特に子猫の扱いに長けている猫になっていました。
「海苔さんがいるから大丈夫」
保護猫を迎えるたび、我が家ではそれが合言葉のようになっていたくらいです。
そんな海苔にも2016年の春の健康診断で腎臓数値の悪化が認められました。慢性腎不全です。歳を取った猫にとって避けては通れない道が海苔に用意されたと告げられました。当時の事は今もあまり思い出せません。私はただネットを駆使して、とにかく海苔の為に、ありとあらゆる事を取り入れました。療法食はもちろん、ウェットもドライも流動食も全てを試しました。サプリメントとしては、ネフガード、美ちょう寿、ケイ素の恵み、レンジアレン、カリナール、他は覚えていませんが、とにかく必死でした。
そんな中、2017年春頃だったと思いますが、猫の慢性腎不全に対しての新薬「ラプロス」が発売されました。ネットでその情報を知った私の一縷の希望でしたが、相談した信頼する先生から告げられたのは「今の海苔には投与するのは難しい」という事でした。
少しずつ悪化して完治はしない猫の慢性腎不全は現状維持する事が必須条件であり、その為の新薬である事から、当時の海苔の腎臓の状態(ステージ3から4)からの投与では効果よりも副作用や投薬によるストレスの方が問題であると。
分かりました、としか言えなかった自分を今でも思い出します。
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その後1年の間でゆっくりと、静かに、穏やかに、海苔は戦いました。2週間に1度だった皮下輸液が1週間に1度になり、週に2度になり、2日に1度になり、最終的には毎日自宅での皮下輸液。ご飯は最後の半年は強制給餌を行いました。強制給餌を始めた頃からつけ始めた手書きのメモノートは、今でも開く事ができません。
2018年4月27日 15時35分、15歳と9カ月。
海苔と私たち家族の戦いは終わりました。
海苔の闘病にかかった費用は医療費やサプリメントや療法食代も含め、3年弱で150万円を超えました。それまで貯めていた我が家の猫貯金を遥かに凌駕する金額でした。だけど、それでも生きていて欲しかった。犬派だった私に猫の事を沢山教えてくれた子。私にとって最も大切な子。海苔がいなければ今の私にはなっていなかったと思います。
猫に限らず、動物にかかる医療費は場合によっては大変な負担になる事があると思います。ですが、その負担を担ったとしても健康になれる子がいるならば、その子はかけたお金以上の事を返してくれると私は思っています。犬派だった私をすっかり猫派に変えてしまった海苔さんのように。
だからこそ今回の里親詐欺案件は私は断じて許せません。夢に見る程の怒りが私の中でずっと渦巻いています。憎くて憎くて仕方ない。できる事ならばこの負の感情を直接ぶつけてやりたい。全くの他人からここまでの怒りと恨みを買う事へのリスクを冒してまでも、そういった活動ができる神経を私は心底嫌悪します。
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