でも「ママさん」は私のことを「クロ」と呼ぶ
ママさんが昔同居していたコが「クロ」だったから
私がママさんに助けられた時には「クロ」はもう居なかった
病気かなにかで死んでしまったらしい
ママさんは私のことを「クロ」の生まれ変わりだといつも言っていた
ママさんが喜ぶから、私は「クロ」でもいいや、と思った
ママさんは私にとってもよくしてくれたから
ママさんにはもう一人同居人がいた
「たーさん」だ
二人は夫婦らしい
私は一人しかいないから私のご主人はママさんだけだ
「たーさん」は少し寂しそうだったけれど、私はいつもママさんにだけ忠義をつくすのだ
あるときママさんから変わった匂いがするようになった
私は一生懸命ママさんを癒してあげたけれど、ママさんの匂いは日に日に強くなっていった
その頃からママさんは時々私にこういうようになった
「クロちゃん、 ママがいなくなったら たーさんをよろしくお願いね たーさんはとっても寂しがり屋なの」
… 無理だよ クロはひとりしかいないもの ママさんとたーさん二人とも癒せないよ 私のご主人はママさんだけなの …
それでも ママさんは私に何度も同じお願いをした
ある日、ママさんは部屋からいなくなり、帰ってこなくなった
「たーさん」はますます寂しそうになった
それから私のゴハンやトイレのお掃除はたーさんがやってくれるようになった
ママさんはどこにいったのだろう
私のご主人はママさんだけだ
私はひとりしかいないんだからひとりしか癒せない
早く帰ってきてよ、ママさん
ママさんがいなくなってしばらくすると、私はなんとなくわかった
ママさんはもう帰ってこないんだ
だからママさんは私にあんなお願いをしたんだね
わかったよ ママさん
今度は「たーさん」が私のご主人様だよ
「たーさん」は私をとてもかわいがってくれた
ときどき背の高いヒトがやってくるようになった
たーさんの息子らしい
たーさんは小さいけれど息子は大きい
私はたーさんと眺めのいいこの部屋で幸せに過ごした
それなのに、たーさんからもあの匂いがするようになってそれは日に日に強くなった
その頃から女の人が出入りするようになった
たーさんのお姉さんらしい
たーさんは細いけれどお姉さんは丸っこい
たーさんもママさんと同じようなことを言った
「クロ ずっと一緒にいてやれなくてごめんな
しばらく寂しくてタイヘンかもしれないけど、お前のことはちゃんと頼んでおくからな
しばらくはトミオがお前のめんどうを見てくれるから仲良くするんだぞ
あいつもけっこう寂しいんだ お前が癒してやってくれよ
シズ姉さんもたまにきてくれるらしいから仲良くするんだぞ
お前は賢い猫だからどこに行っても誰にでもかわいがられるぞ」
嫌だよ たーさん
私はひとりしかいないんだからひとりしか癒せないよ
私のご主人様はたーさんだけだよ

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