部屋は1階で、芝生の庭10メートル先には柵があり、その先は崖で真下は太平洋。波が荒い。
一風呂浴びて部屋に戻り、外を眺めていたら、あっ、子猫!
隣の部屋の前で鳴いている。すぐ外に出てみると、子猫は隣の部屋の室外機の後ろにいた。隣の部屋の宿泊客が広縁の椅子に座って無表情に子猫を見ている。
子猫はかすれた声で鳴き続けている。
呼ぶと、子猫はすぐに私のところに来た。抱っこして、さてどうしようか数秒考え、心はすぐに決まった。
子猫を部屋で自由にする事はできないので、ずっと抱っこして旦那が風呂から戻って来るのを待ち、戻って来た旦那に、子猫拾っちゃった、と言ったら、当然旦那はビックリ。
旅館と交渉するから、子猫抱っこしていてと旦那に頼み、すぐにフロントに電話した。
フロントスタッフのお兄さんはバスタオルを持ってやって来た。子猫を連れて行きますと言うので、
「連れて行ってどうするんですか? もしかして遠くに捨ててくるつもりではないですか?私は普段、猫の保護譲渡をしています。この子猫を一晩預かってもらえたら、明日連れて帰ります。」と、私。
お兄さんは、上司と相談すると行って戻っていった。
数分後、女性スタッフがやって来た。子猫をボイラー室で預かると言う。危なくはないし、暖かいし、そこに大きな段ボール箱を置いて、水とご飯とバスタオルを入れてくれるという提案だった。
よろしくお願いします、という事になり、女性スタッフは戻って行ったが、また別な男性スタッフと一緒にやって来た。
その男性スタッフが言う。
「ボイラ-室も含めて、館内に子猫を保護できる場所はありません。他のお客様のご迷惑になるような事はできませんので、外に段ボール箱を置くことになります。」
私 「だったら絶対に脱走しないように充分注意して、雨や風が入らないように気をつけてもらえますか?」
男性スタッフ 「そんなに心配なら、車の中に子猫を入れておいたらいいんじゃないですか?」
私 「うちの車は普通のセダンで、大きな段ボールなんて入りません。」
カンカンガクガク ケンケンゴーゴー …。
男性スタッフと私のバトルを広縁で聞いていた旦那が突然言った。
「帰ろう。」
ビックリして全員が障子のほうを見ると、旦那が子猫を抱っこして現れた。
「もういいよ。子猫を連れて今すぐ帰ろう。」
えーっ!カニ尽くしの夕食が、カップ麺の夕食になってしまうっ!
男性スタッフについ聞いてしまった。
「ここで帰ったら、当日キャンセルになりますかね?」
男性スタッフ 「そうなりますね。」
ここで私はトーンダウン。ホテルのスタッフにお任せすることにした。
夕食後、フロントに行って子猫の事を聞いてみると、子猫のところまで案内してくれた。
雨も風も当たらない半屋内のような場所で、箱の中にはバスタオルと水入れと空の紙皿。皿にはマグロの刺身がのっていたらしいが完食。
夜遅い時間と朝にもマグロをもらったらしい。夜間は夜勤のスタッフに、時々様子を見てほしいと頼んでもくれていた。
翌朝、朝ご飯を食べてすぐにチェックアウトした。
玄関前で子猫の入った小さな段ボール箱を受け取り、スタッフからのプレゼントのチュールまでもらった。
のんびりするつもりで出かけたのに、大いに疲れた温泉だったが、子猫ちゃんを保護できて良かった。
ホテルのフロントスタッフの皆さんには大変お世話になりありがとうございました。
生後3ヶ月くらいの五浦(いずら)ちゃん
ただ今、猫風邪治療中

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