やや子達は今日、大奥を離れ、麦千代と琥珀丸は親藩「不眠症乙参藩」へ養子に、モモ姫は、豪農の梨々軽家へと輿入れと相成りました。
朝早くから乳を飲ませ、
連れてゆく準備をいたします。
「すまぬ、許しておくれ。袴儀まで、髪置きの儀まで、大奥で育ってほしかった。親子で仲良く過ごして欲しかった。しかしわたくしの力及ばずじゃ。どうか、許されよ」
まずは麦千代と琥珀丸を連れてゆかねば。
「3匹でおれるのも今朝が最後じゃ。3匹で戯れるのよいぞ」と別れを惜しんでおりますと、外に見慣れぬ若いキジシロ猫が。

なかなかのイケメン猫。
「むむ。そなた、見ぬ顔じゃな。どれ、マモーのお方が食べておったカリカリが余っておるし、そなた、食べるが良いぞ」と庭への掃き出し窓を開けると
壁の隅に
マモーのお方が
小さくなってうずくまっておりました。
「マモー‼️」
思わず大きな声が出て、
キジ猫はそれに驚いたのでございましょう。一目散に逃げてゆきました。
(後から思えばこの若者がマモーを連れてきてくれたのやもしれませぬ)
マモーのお方も驚いて耳を伏せ、
シッポも丸めて後ずさり。
「何を怯えておる。よう帰った、誰もそなたをもはや責めはせぬ。殿もややも待ちかねておるぞ。これ、入るがよい」
いつもなら、「早く家に入れろ‼️」とばかりに隙間から鼻先を突っ込んできておりましたのに
マモーのお方は、まるでわたくしを初めて見るかのような顔をしております。
「マモー❓」
呼べばいつも「ニャ」と返事をするのに、怯えて声も出ない様子。それでも腹は空かせておるようで、餌をちらつかせると、家に入ろうかどうかと迷っておるようでございます。
点々とカリカリを撒き、家の中におびき寄せるも、マモーのお方は異常に「家と外との境目のサッシ」を恐れており、外から手を差し入れてカリカリを引き寄せる念の入れよう。
これは、おかしい。
ただ単に発情して外に出て戻ったのなら、わたくしや、「家の入り口」にこんなに怯えるわけがございませぬ。
「何が あったのじゃ。
もとい、そなた、
誰に、何をされた‼️」
とにかく、家に入れてしまわねば。
今もしマモーのお方をまた逃せば
二度と大奥には
帰ってこない気すらいたしました。
騙し騙し、カリカリを部屋の奥へ奥へと置き、とにかくマモーのお方を部屋の中へ。全身入ったところで急いで扉を閉めると、その音に

「閉じ込められた‼️」
とマモーのお方はパニックとなり、今まで入ったことのないソファの下へと潜り込んでしまいました。
警戒心最大。
その目は、野良の猫の目でございました。

「落ち着くまで、そこにいるが良い。
しかしマモーのお方よ、そなた
何もかも忘れてしまったのか?
そなたにはこんなにも可愛い
ややが、おるのじゃぞ」
巣箱に目もくれず、ただ怯えるマモー。
そこで
3匹の中でも一番よく鳴くモモ姫を、ソファの下のマモーのお方から見える場所へ置きました。もしかしたら、緊張と興奮でマモーのお方がややに襲い掛かるやもしれぬ、そのような恐れはございましたが
モモ姫は、床に置くとすぐ「ピャ〜、ピャ〜‼️」と乳飲み子特有の声で鳴きました。

その声を聞いた瞬間
マモーのお方の目つきが変わり、
ずるずると腹這いでソファの下から這い出てきたのです。
わたくしはすかさずモモ姫を巣箱へと戻しました。
するとマモーのお方は
迷わず巣箱に入り、すぐにやや子の体を舐め、乳を含ませ初めたのでごさいます・・・
(やはり、ニンゲンに対してはかなり怯えた表情にございます)

巣箱ご提供: 牛赤身スジ肉おでん煮込み用 様
マモーの、
母なる心を
やや子の声が引き戻したのでございましょう。
なんと素晴らしい。
わたくしの心は震えました。
しかし、それと同時に
なんと皮肉なことでしょう。
2時間後には、琥珀丸と麦千代が
7時間後には、モモ姫が
大奥から、出てゆくのでございますから・・・
続くのだ!!
最近のコメント