「君がしてほしいことや望みは何?」
ジッと私の顔をみて、ゆっくりとまばたきするグル。

いつからだろうか、病気になった当初は私の顔を見る時にたまに
なんともいえない目をしている時があった。
こちらを伺うような…そう、拾った当初の
「俺ここにいていいかにゃ?」って一生懸命に愛想ふって良い子していた時の目。
また、あの目をさせてしまった。
どこかで私が
「以前と違う、あんなにふっくらだったのに…どうしよう」
ってグルを愛しい子としてではなく、まるで観察動物みたいに容態を見ていた。
きっと、それに気づき、そして体調に一喜一憂する私の気落ちに彼は気づいたせい。

抗がん剤なんて彼は望んでいない、なのに私は彼を病院に連れていく。
「えらいね」「ありがとう」は彼に伝えても、「ごめんね」は言わない。
言ったら「ごめんね」の気持ちが強くなり、彼がかわいそうな子になる気がして。
言えなかった。
ここにきて選択はもともと少ないのに、もう選べない状態になってきた。

一番強い薬と増えたステロイドと吐き気止めにより、彼はずっと寝ている。
抗がん剤が効いて弱っているならいい、だけど進行して弱っていっている確率が高い。
選択肢もほぼなく、してあげられる事も少なく、傍についていてやる事もできない。

餌を三度差し出して、やっとそむけた顔をシブシブとエサ皿に近づけて食べてくれる。
おいしいからではなく、きっと私の為に食べてくれている息子。
彼が望むこと…わかってる。
何もなく、ただ毎日の日常を過ごしたいだけ。
私に何ができるか毎日ずっと考えている。けれど大して出てこない。
そんな時にメロがスッとグルの傍に座って、グルの顔にほおずりした。
初めて見た。そしてその瞬間に理解した。
グルのこれでもかという幸せに目をほそめてグルグルと喜ぶ姿。
彼の幸せは家族。ただそれだけ。

ただ今まで通りに家族と共にいたい、それが家族大好きな彼の幸せ。
私だけでなく、女の子たちも当たり前に寄り添ってくれている。
そうか、家族だから私だけじゃないんだね。
メロ・マロコがグルにとって、どれだけ幸せな事なのか。
みんなで家族なんだ…そうだね。
過剰に心配するでもなく、ただ黙って傍にいる女の子たち。
肩の力が抜けた。あとは決めるだけ。治療をどうするのか。
薬を最初にチュールで飲ませて、あとの食事は彼のペースに任せる事にした。
痩せた彼を抱きしめて、今まで通りのダッコとナデナデで
彼が去るときは「またね」と解放する。
通りすがりに頭をなでるだけで、辛そうでない場合は放置する事にした。
今まで通り、痩せようと彼は動ける限り毎朝の
「おはよーにゃ」をしてくれる。
軽くなった彼に体をふまれて今まで通りに彼の尻尾をモフモフする。
副作用で毛がぬけても、ほかの子と同じようにブラシを要求されたらする。
骨に直接あたって硬い額も大好きな指でコツコツしてあげる。
いろんな食事をビュッフェ形式で並べてあげる。
女の子たちに食べられても仕方ないね。君たちで解決しなさい。
ほら、マロコがカツオ食べにきたよ?うん、君も食べたくなった?
そうかよかったね、なら新しいの出してあげるよ。
奇跡なんて望んだことはなかった。
けれど君は一度奇跡を起こした。
だけどもう私は君に奇跡を求めることが辛くてできない。
辛いのはただ私が君の死の気配から逃げたいから。
君にとって奇跡はもう起こってた。
我が家に来た理由はきっと「家族」を作りに来た事。
それが君の奇跡。それが幸福。
みんなと一緒にいれる時間が少しでも長くありますように。
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