妻は私が目覚めるとすでにダンボールを覗いていました。
「どう?」私は聞きました。
「う~ この子は動いてないみたい・・・」
「ん・・・そうか・・・」
「でも 見て この泣き虫子猫・・・」
「んん どれどれ」
「な 寄り添っているわ」
「ほんとやなぁ でもこの子が大怪我をしているって知らんねんやろなぁ」

泣き虫子猫はいつも一緒に遊んでいたと思われる姉妹に寄り添ってすやすやと眠っていました。それはなんともほほえましい光景ではありますがこれからのことを考えると返って心配でなりませんでした。
朝の支度を終え、泣き虫子猫が目を覚ましたので私は手のひらで抱きかかえダンボールから出しました。
『ニィ~ ニィ~』 元気な訴え泣きです。
「きっと おなかがすいているんやわ」
「ミルクかな?」
「ノラやからミルクは知らんやろ」
「じゃ~ ねこ缶?」
「そうやな ねこ缶でええんとちゃうかな?」
抱きかかえた泣き虫子猫の前に妻がねこ缶を盛ったケープのお皿を差し出すと元気に私の手の中で暴れだしました。
「あたり!! あたり!! お皿を下に置いてぇ」
「放すで」
私が床の上に泣き虫子猫を放すとケープのお皿に盛ったねこ缶に顔を埋めて食べだしました。
「ええ 食べっぷりやなぁ~ このぶんやったらこの子は大丈夫や」
「うん じゃ~私はこっちの子を連れてお医者さんに行ってきます」
「そうやな ケープとチャロがちょっと心配やから留守番しとくわ」
妻はお医者さんに電話で今までのことを説明し病院に行きました。
その間、私は泣き虫子猫のお守りです。
ご飯をいっぱい食べた泣き虫子猫はスタスタスタと自分のお家と思っているダンボールに戻っていきました。ケープは自分のお皿で子猫がご飯を食べているのが気に入らないのかずっとすねています。新しくケープのお皿にねこ缶ご飯を入れても大好きな鰹節をふりかけてもすねていっこうに食べようとしませんでした。
「ケープ!! いい加減にしいいや!!」
『ウウゥ~~~~~!! 』 ケープがうなっています。
子猫が先住ねこの気兼ねもなしにご飯を食べて自分のお家のダンボールに帰って勝手に寝ているのがよっぽど気に入らなかったのでしょう。その後、ケープは好きな銀紙ボールも荷造りヒモも数日間は遊びませんでした。
しばらくして、妻が病院から帰ってきました。
「どうやった?」
「うん・・・」
「だから どうやったん?」
「もう・・・あかん・・て・・・」
「あかんて・・どういうこと?」
「あと 2,3日もつかどうかだって」
「ん・・・そうかぁ」
「とりあえず抗生物質の注射だけ打ちますか?って」
「そうかぁ」
病院から帰ってきた妻の獣医さんからの診察の答えは最悪のシナリオでした。
でも帰り際にもらったものがありました。
それは、「体温が下がっているからせめて最後まで温かくしてあげてください」の言葉と『針のない注射器』でした。
死を間近にした大怪我の子猫の横でダンボールの中では何も知らない泣き虫子猫がケープの銀紙ボールと戯れていました。
最近のコメント