子猫を抱きかかえたまま私に指図をした妻は急いで注射器から牛乳を吸い取り子猫の口にあて、吸う量に合わせて注射器から牛乳を押し出しました。
妻がなぜ獣医さんから針のない注射器をもらって帰って来たのか、なぜ指を吸ったらそれが必要なのかをその時私ははじめて理解しました。帰って来た時のあまりの診断結果にそんなことにはなんの疑問も思いませんでした。しかもそのもらって帰って来た針のない注射器が何日もたって必要になることは妻も思いませんでした。
私はその注射器の存在すら忘れていました。
そんなことを思いながら子猫が牛乳を飲んでいる様子を見ていて少し嬉しくなっているときでした。
妻が急に大きな声を上げました。

「あああああっ・・・」
「どうしたん!?」
見ると子猫のホッペから牛乳と血が混ざった液体が流れ出ていました。
「あっ!!ほっぺが割れている」 私は思わず言葉が出ました。
「はやく!!はやく!!ティッシュ!!ティッシュ!!」妻は冷静にまた私に指示をしました。
私は子猫のホッペにティッシュをあて妻は牛乳を与え続けました。
「大丈夫かなぁ・・・」私がぽそっと言うと
「いくらこぼれたって吸っている限り飲ませる!!生きたいんや この子」
このときの出来事は今思い出しても感動的でした。生きるってすごいことだなとつくづく思いました。
想像してください。体は全身打撲でいうことを利きません。力が入りません。でも生命力は元気です。血を流しながら栄養を取っている子猫は生きることに一生懸命でした。生きることの真剣さを教えてもらったような気がします。
大怪我をした子猫が一息ついて私たちも我に返りましたが注射器の牛乳を何杯おかわりしたのかは二人とも覚えていません。でも満足した子のこの顔は今でも忘れていません。
「落ち着いてみたらかわいい顔しとんなぁ」
「うん なんか安心したわ」
「でも元気になったといっても寝たきりかもしれんな」
「ええやん うちの子でこの子が生きたいと思ってくれただけで」
「うん そうやな」
「寝たきりかもわからないけどかまへんわ」
「そんときは、あれつくったるわ」
「あれって?」
「テレビで見たけど車椅子みたいなもんや」
「できる?」
「できるやろ!!」
「でもこの子目も見えへんかもしれへんし・・・」
「そういえば 目 つむったままやなぁ~ ん?? あれ?」
私は子猫の目の周りに血の塊があることに気が付きました。
「ちょっと そのまま子猫を抱っこしといてや」
私は綿棒に水を含ませて子猫の目に沿って軽く当てました。
そんな子とを数回すると子猫の目はぱっと開きました。

「おおぉ~ あいた!!あいた!!初めて見たのはオレの顔や!今日からお前はウチの子や!!」
「それなら名前がいるなぁ」
「そうやな?“タイ”と“ふー”や!!」
「それって そのまま?」
「そう!!そのまま!!台風の日にやってきた“タイ”と“ふー”や!!」
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