時刻は午前3時になる頃でしょうか。
降り出した雨にタイミングが良かったとほっとしながらドラッグストアに向かいました。このまま段ボールとバスタオルだと心もとないのでトイレ用のシートと、舐めても大丈夫なウェットティッシュ、粗相したとき用にペット用消臭スプレー、あとは食べやすいようにウェットフードを買いました。猫用のシャンプーも買っておきたかったのですが、成犬用シャンプーしか取り扱っておらず、私自身何もかも初めてだった為、日中ホームセンターで猫用シャンプーを買うことにしました。
家に帰り、早速子猫のお世話もしたいのですが私たちはまだご飯を済ませてなかったので、夫に「まずは自分たちがご飯を食べて話し合おうか」と洗面所で帰宅後の手洗いをしながら話しかけました。返事はなく、振り返ると夫は2階の方にドタドタと上がっていった後でした。買ったご飯をお皿に盛り、あとを追いかけるように部屋に入りました。2階へ上がるとまだ子猫はみゃあみゃあと不安げに鳴いています。「ちょっと、手洗ってからにして!」夫に言うと、しょんぼりと部屋を出ていきました。子猫の前にご飯の入ったお皿を置くと、既に美味しそうな匂いがしていたのか先程の煮干しの時のように周りを警戒することも無くむしゃむしゃと夢中で食らいつき、あっという間に完食しました。オイルまみれの小さな身体でとても疲れていたと思うのですが、まだ食欲があることにとてもほっとしたのを覚えています。嫌がり暴れる子猫を抱き上げ、買ってきたシートを段ボールに敷き詰めてから1階へ降りました。
食事の最中、夫と子猫について話し合いました。前の年に夫が猫を飼いたいと言っていたこともあり、もしかしたらと淡い期待もあったのですが、それはもう過去のこと。「なにか病気かもしれない」「讓渡会とかで、安心して健康な猫なら迎えたい」「でもあの猫は何があるか分からない」と反対されました。あの子を綺麗にしてあげて、病院で診てもらって、里親に出す、話し合いはそう纏まりました。その時はなにか分かりませんでしたが、少し胸に引っかかるものを感じました。
私自身猫を育てたこともなく知識も無かったので、明け方が近いこの時間帯でも返事が返ってくるであろう友人と猫を飼ったことのある前の職場の先輩に今日のことを報告しました。
お風呂を済ませ部屋に戻ると部屋が静かになっていました。段ボールを覗き込むと子猫がうとうととうたた寝をしていて、人の気配に気がつくと警戒したようにまた鳴き始めました。次にこの子にするべきなのは大まかな汚れを拭き取ること。我慢してねと言いながら抱きあげようとしましたが、またシャーシャーと威嚇を始めました。必要とはいえこれじゃあただ怖がらせて嫌がることをしていることになります。ご飯をあげたことにより少しは警戒しなくなるかなと思いましたが、そんなに甘くはありませんでした。なんとか仲良くなれないものか…と思い、この日は私も疲れていて考えることを放棄したのか、今思えばとんでもない行動をしていました。
水を一旦外に出して、バスタオルを持ち、片足を段ボールに踏み入れました。子猫は驚き、鳴くのをやめ、「お前正気か」と大きく見開いた目で見てきます。両足とも段ボールに入り膝にバスタオルをかけて座り込みました。自身よりも遥かに大きい人間の奇行に「え、嘘でしょ」と子猫はその場で動きを停止しています。しょうがないでしょ、ちょっと狭いけどごめんね、と子猫を持ち上げ膝に乗せ、買ってきたウエットティッシュで身体を拭きました。何が起きてるか分からないのか子猫は大人しくされるがままです。やはり乾いて固まったエンジンオイルは拭き取ることは不可能でしたが、しばらく身体を拭いていると遊んでいると思ったのか子猫がウエットティッシュにじゃれてきました。
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更にゴロゴロと喉を鳴らしながら二の腕や足にカプっと噛み付いてきます。無知な私はきっと自分が捕食対象に見られているんだとこの時は思いました。
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今振り返ってもこの時の私の行動はだいぶ強引でしたが、子猫はお母さんに身体を舐めてもらっていたのを思い出した瞬間なのかなあと思います。膝の上にしばらく乗せ、警戒心もだいぶ解けて、触ってもゴロゴロと言っていたのでオイルの着いた毛をかき分けて皮膚を見てみたところ赤くなっていたりする部分はありませんでした。
そのままの体勢で友人からの返信を読みました。拾った状況の説明とシャンプーがこの時間は売ってなくて困っているとメッセージを送っていたのですが、
『うちの犬は俺と同じシャンプー使ってた!バケツに半プッシュで水で薄めて』
んー、却下。
皮膚や体調に影響がなく飼い主が責任を取れるのならいいのですが、こちらは初めましての子猫ちゃん。お試しでそのようなことをするのはだいぶ気が引けました。『一緒に段ボールに入ってる…』と写真を送ると、『シンバやん!』と画像と共に返信がきました。
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腕によじ登り首をうんと伸ばして携帯を覗き込む子猫は、CGで出来たリアルな子ライオンをじーっと見つめていました。ライオンのように暴れん坊なこの子猫は、後にシンバと名付けられることになります。
もう1人、前の職場でお世話になった先輩からも仕事終わりに返信がきていました。写真を添えて状況と子猫の特徴をより詳しく説明したところ、ゾッとする一文が返ってきました。
『そのままだとカラスの餌』
うわあ…
子猫に限らず、例え子犬でも外で鳴き続けることは外敵に居場所を知らせる行為でもあります。今日のことを気にも止めずにいたら数日後には近所で地面をつつくカラスの姿を見て胸を痛めていたかも知れません。放っておくのも間違いではない事なのですが、私はそれを読んで血の気が引いたのを覚えています。次に送られてきた『だから拾ったのはしょうがないね』この一言がこの日の私の行動が初めて肯定された瞬間でもありました。この後も先輩は親身になって話を聞いてくれて、お礼を言ってこの日は寝ることにしました。
もうすぐ朝の6時になる頃、夫がもう一度様子を見に部屋にやって来ました。子猫用のベッドが我が家には無いため、夫のドーナツクッションをベッド代わりに借りることにしました。私は膝の上で疲れて眠る子猫をバスタオルでくるんだまま下ろし、離れると、まだそんな体力があったのかと呆れるくらい大きな声で鳴き、段ボールから跳び出そうとしてきます。「この子お母さんに会いたいのかな」「ちょっとごめんね」と、夫はたとう折りで封をし、自身の寝床へ向かいました。
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私も部屋の電気を消し、ベッドへ入りましたが、ドスッドスッと子猫が出ようとする音と、不安でたまらないといった鳴き声が部屋中に響きます。少し心配でしたが、声もかけず静かにしているとやがて大人しくなり、眠ってしまった様でした。時々、うみゃあと小さく寝言を言っていたのが可愛らしくて、ふふっと笑いながら私も眠りにつきました。
✂︎- - - - - - - -キリトリ- - - - - - - - - - -
今日はここまで
初日のことを思い出すと本当に一日長かったなあ( ´-`).。oO 段ボールに一緒に入った話は「無理やりすぎだろ」と誰に話しても笑われたエピソードでもあります(だって仲良くなりたかったんだもん)
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