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モモの病状は悪化します。
トイレをまたぐことが出来ず、片足だけ突っ込んだ状態でおしっこをするようになりました。
また、口が動かしにくくなり、食事がうまくできなくなりました。
大学病院の獣医は音を上げてしまいました。
近所の獣医も、治療する自信がないと言いました。その人は、モモの病状が「チアミン(ビタミンB1)欠乏症」に似ているようだと言いました。このコメントは貴重でした。
しかしその人は、「チアミン欠乏症」について一般知識があるだけで、治療経験はないとのことでした。
私は、自分でモモの治療をするしかありませんでした。
私は「チアミン欠乏症」について調べました。
「チアミン欠乏症」は、ビタミンB1不足からくる病気で、人間の病気「脚気」のことです。昔は多くの人が脚気で亡くなりました。ビタミンB1が不足すると、神経が損傷を受けます。症状は、猫も人もよく似ていて、まず手足、眼などに症状が出始め、脳神経も損傷を受け、最後は死に至ります。
7月に発病し、11月に再発した前庭疾患。チアミン欠乏症はその原因の一つであることがわかりました。
出典 https://www.vmn.ne.jp/neuro2017/handout/files/3npfr4gjq/neuro2017-3-1-slide.pdf
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モモは、両手両足を横に広げて立ち上がろうとします。前庭疾患の特徴です。
また首が傾き、歩く時旋回します。
首が右に傾き、右旋回するモモ。
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昔から「猫がイカを食べると腰が抜ける」とよく言われます。イカにはビタミンB1を分解する酵素(チアミナーゼ)が含まれていて、それがビタミンB1欠乏を引き起こすです。モモは時々、立ち上がろうとして立ち上がれず、ペタンと倒れるようになりました。この時の様子は、まさしく「腰が抜ける」でした。
前庭疾患はチアミン欠乏症以外でも起こるので、これだけでは、チアミン欠乏症と断定することは出来ません。
モモには、もう一つ重大な病気がありました。心臓病です。モモの心臓は、右心房から右心室へ情報を送る神経が損傷を受けて、不整脈になりました。8月下旬の頃です。猫のチアミン欠乏症と心臓病を関連付ける文献を探しましたが見あたりませんでした。しかし、人間の「脚気」に関する文献を調べるとすぐわかりました。心臓の障害は、脚気の最も重大な病状だったのです。
モモが、チアミン欠乏症であることは間違いありません。
しかし、なぜチアミン欠乏症になったのか?
最近のペットフードは質が良くなりビタミンB1が必ず配合されています。モモは、ずっと腎臓の療法食を食べていたので、チアミン欠乏症なることはないはずです。
あることに気づきました。モモが、前庭疾患や不整脈になったのは、腎臓病の治療のために、水分補給の皮下点滴を始めてからです。原因はそれかもしれないと思いました。
輸液(水分補給の点滴)をしている猫は多いはずですが、皮下点滴が原因でこの様な病気が起こるということはこれまで聞いたことがありません。輸液とチアミン欠乏症を関連付ける文献を探しましたが、全然見つかりませんでした。
私は、人間の「脚気」に関する文献を調べました。興味深いことがわかりました。利尿剤の服用によってチアミン欠乏症が起こることがあるのです。輸液も利尿剤も、尿の排出を促すものです。輸液によって、尿の量が増えるとビタミンB1の排出量も増えます。これがビタミンB1欠乏の原因です。
現在の獣医学は、人の医学では常識であることの多くがまだ手つかずだということを痛感しました。
私のこれまで、ビタミンB1は体の組織が必要量を吸収された後に、余りが尿とともに排出されるものだと理解していました。実際多くの文献には、その様に書いています。
しかし、より正確に言えば、腎臓自体にビタミンB1をコントロールする機能はなく絶えず排出し続ける、只、それよりも早い速度で組織がビタミンB1を吸収するのだと思います。
腎臓病になると、弱った腎臓の力を補うために大量の水を使って老廃物を洗い出そうとします。おしっこの量は、通常の何倍にもなります。そうなると、体の組織がビタミンB1の必要量を確保する前に、排出される可能性が出て来るのです。
モモはあまり話さなくなりました。
私が何か聞くと、「アー」と小さな声で答えるだけです。
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