猫は人に比べて、大脳皮質の割合が少なく、特に前頭前野(前頭連合野)の割合が非常に少ないのです。
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「大脳皮質」:大脳表面を取り巻く薄い皮状の神経細胞の集まりで、知的活動に携わる部位。
「前頭前野」:前頭葉にある大脳皮質で、最も深く知的活動に関わる部位。
論理的に考える、創造する、計画する、推理する、判断する、感情を抑制するなどの働きをします。
人の場合、前頭葉の大脳皮質の大部分、大脳皮質全体の約30%を占めます。
こうしてみると猫の知能は人よりずいぶん劣っているように思えますが、実際どれほど違うのか、猫と人の実例を挙げて検討してみたいと思います。
まず、今うちにいるこの母猫。
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とても子供思いで、よく我が子の体を舐めます。
子猫の体の隅々、顔からお尻まで、きれいに舐め回します。
私は、子猫の結膜炎の治療をしており、眼に軟膏を塗っているのですが、母猫が舐め回すので取れてしまいます。
「バカッ」と怒鳴りたくなります。
次に人間の例、私のおばあさんです。
明治生まれで、貧しい家庭で育ち小学校もろくに出ていない人です。
私が1-2歳の頃、おばあさんは、自分の口の中で噛んで柔らかくした食べ物を私に食べさせていたそうです。
当然、母はものすごく嫌がり「ムシバ菌が伝染るからやめて下さい」と言いました。
しかしおばあさんは、インテリぶった生意気な嫁の言うことなど聞きもしません。
結果は、母が心配したとおり、私は人より早く虫歯ができました。
我が子の目に塗った薬を舐めてしまう母猫と、孫にムシバ菌をうつすおばあさん、どちらが賢いでしょうか?
私は、母猫を注意深く観察してあることに気づきました。
母猫は、我が子が只々可愛くて舐めているだけではないのです。
子猫の健康状態に注意している様です。
私が軟膏を塗った所を特に念入りに舐めています。
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母猫は仔猫の右目を舐めて、
「あれっ?変な味がする」(認識)
「この子の目が悪いのは、きっとこのせいだわ!」(推理)
「よし、よく舐めておこう」(解決策)
母猫は、子猫の眼の異変を認識し、推理し、解決策を導き出しているのです。
前頭前野がよく機能しています。
それに引き換え私のおばあさん、孫を猫可愛がりするだけで、健康のことには無頓着、前頭前野は働いていません。
私にDNAの25%をくれた尊敬すべき人ですが、どうやら母猫のほうがおばあさんより頭が良いみたいです。
前頭前野は、生まれた時は全く機能していません。
新品パソコンの、ソフトウエアが全く入っていない状態と一緒です。
前頭前野が働くためには、知的活動を行う様々なソフトウエアを導入しなければなりません。
それは、学習することによって得られます。
学習とは、勉強だけではなく、生きるために必要な技を習得することです。
私のおばあさんは、子供の時から弟や妹の子守をしたり、働きに出たりして、十分なソフトウエアを身につけることが出来なかったのです。
パソコンが大好きで、よくキーボードを叩いていたモモ
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実は、人の前頭前野の神経細胞は、大部分が未使用なままです。
パソコンの空き容量がたくさん残っている状態と同じ、新たなソフトウエアを入れる余地がたくさんあります。
せっかく他の哺乳類よりもずっと多くの神経細胞を持って生まれて来たのに、もったいないことです。
猫の前頭前野は、方程式を解いたり、論文を書いたりするには容量が足らないかもしれません。
しかし、日常的、一般的な事柄は、人間とあまり差がなく処理出来ます。
猫は日頃、人と同じ様に、考えたり、感じたりして生きているのです。
人の前頭前野は20代以降も成長を続け、60代半ばにその能力がピークになるそうです。
猫もおとなになってから前頭前野が発達するみたいです。
うちのモモは、2歳ぐらいから言葉をたくさん覚えました。
(後編では猫の心について検討します)
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