しかし世間には、猫が本能で生きる下等動物だと思っている人が今でもいて、それが猫に対する残酷な仕打ちにもつながっています。
前編では、猫の知能について検討しました。
後編は猫の感情、愛情など心に関わる部分について検討します。
心がどこにあるかは、現代科学では答えが出ていません。
しかし、感情については、かなり明らかになっています。
感情の発生は、知能よりも複雑で、大脳よりも奥にある色々な組織が関わっています。
これらの組織をひっくるめて、「情動回路」と呼びます。
情動回路には、中枢となる「視床下部」、怒り・不安・恐怖など不快なものを扱う「扁桃体」、喜び・楽しみなど快感を扱う「側坐核」などがあります。

感情は、情動回路間と大脳皮質との間で、神経細胞が複雑な情報のやり取りをすることによって発生すると考えられます。

解剖学的に、猫の情動回路は、人と遜色ありません。
神経細胞の情報のやり取りは、神経伝達物質というホルモンによって行われます。
アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニン、アセチルコリン、オキシトシンなどが代表的なホルモンです。
猫も、人間と全く同じ神経伝達物質が体内で生産され、働いています。
神経生理学的にも、猫の情動回路は、人と差異が見られません。
猫には人用の精神疾患の薬がよく効きます。
以前、うちのモモに、食欲増進の為にミルタザピンという人用の抗うつ薬を飲ませました。
ミルタザピンを飲んでいた頃のモモ

ミルタザピンは、ノルアドレナリンとセロトニンの神経伝達を良くする薬です。
ノルアドレナリンは元気を出すホルモン、セロトニンは癒やしのホルモンとよく言われます。
猫の感情はきめ細やかで、感受性がとても高いです。
そのためストレスに弱く、パニックになりやすく、またトラウマを抱えやすいです。
子猫は、よく神経性の下痢になります。
外の暮らしに慣れた野良猫を無理に家猫にすると、うつ病になります。
野良猫を病院につれていくと、パニックをおこし死ぬことがあります。
そしてトラウマ。
うちのNoraは、野良猫時代にTNR活動家に誘拐されました。
初めて行った病院は、Noraにとって、とても恐ろしい場所でした。
Noraは今でも病院が怖くてたまりません。
病院に入るとキャリーバッグ内で爪を立てて暴れ始めます。
血液検査であお向けにされたとき、恐怖でオシッコをしてしまいました。
最近のNora

猫の感情は、人間よりも高度なのかもしれません。
人間は、進化の過程で大脳新皮質、とりわけ前頭前野を発達させました。
猫は、前頭前野よりもむしろ情動回路を発達させたとも考えられます。
猫の愛情の深さは、特に際立っています。
母猫は、我が子を守るために、身を犠牲にして、人や犬や野生動物など自分よりもずっと大きくて強い生き物に立ち向かいます。
最近注目されているオキシトシンというホルモン、最初、分娩時の子宮収縮や母乳が出るのを促す働きがあることから、女性ホルモンの一種と考えられていました。
その後、男女関係なく視床下部から分泌されるホルモンで、愛情に関係する神経伝達物質であることがわかりました。
猫は人より、オキシトシンの分泌機能が優れているのかもしれません。
仲の良い捨て猫親子

母猫の愛情は、赤ちゃんがお腹の中にいる頃から始まっています。
猫の前頭前野は、医者の「妊娠何ヶ月」とか「予定日は○○」という話は、理解出来ません。
しかし、自分の体の変化によって、特にお腹の子が動くようになって、子供が出来たことを悟ります。
母猫は、お腹の子のために、ものすごい力を発揮します。
野良の母猫は、オスのボス猫よりも強くなり、敵と戦い、食べ物を探し、出産場所を探します。
TNRで捕獲された母猫は、病院に運ばれながら、自分たちの絶望的な未来を予感します。
「私はどうなってもいいから、お腹の子だけは助けて」と心のなかで叫びます。
母猫の心の声が聞こえない者は、情動回路が機能していません。
冷血動物の脳は、前頭前野も情動回路も未発達です。
前編で、猫の脳は、方程式や論文など高度な知的活動をするのは難しいと述べましたが、楽器の演奏は出来るようになるかもしれません。
音楽は、感性を最も必要とする知的活動だからです。
実際、捨て猫親子の会話は、時々メロディーを奏でているように聞こえます。
猫は、「あいうえお」ではなく、「ドレミファソラシド」で話しをするような気がします。
ピアノの鍵盤を、猫の手のひらサイズにして打たせます。
叩く場所によって音の高さが違うことに気づけば、可能性があります。
作曲もできるようになるかもしれません。
猫の感性で作った曲、聞いてみたいです。
モモにパソコンのキーじゃなくて、ピアノのキーを打たせればよかった。
最近のコメント