いつものとおり、外で狩りの練習をしていた
ボクは夢中になりすぎて油断したらしい
その狩場は少し外れると、猛スピードで走っている凶暴なヤツラがいて、それにぶつかったり、踏んずけられたりしようものなら、ボクらはペチャンコになってしまう
母さんに何度も注意されていたのにボクは一度だけ油断した…
ボクはそれにぶつかった…
体は吹き飛び、足が動かなくて、母さんと兄さんを大声で呼んだけれど、二人ともたぶん、遠くにいたのだろう…
近づいてきたのは、母さんでも兄さんでもなく、二本足の大きな動物と僕よりだいぶ大きな4本足の白いヤツ…
コイツらは何度か見たことがある
よくこのあたりを通りかかるからだ
白いヤツはいつも ヒモで繋がれて不自由そうで、ボクらはいつも同情していた
二本足のヤツラはヒトというらしく、狂暴で、ボクらを捕まえると、閉じ込めたり、ヒモでつないで引きずり回したりするらしい…
噂のとおり、ボクはヤツラにあっさり捕まって、狭い檻に入れられた…
檻の中でボクは水と食事を与えられた
けれど、ボクに自由は与えられなかった…
そこにはヒトと白いの以外に ボクと同じ種族の者もいたけれど、ソイツらはボクに近づいてこなかった
当然だ…
同じ種族でも縄張りの外から来た者には簡単に馴れ馴れしくしないのが、ボクらのルールだ…
でも 白いのはそんなルールはおかまいなしだ…
じっとこちらを見つめて、ボクを憐れんでいるのだろうか…
「やあ、ボクはウィード どこか まだ痛むかい?」
「…」
「そんなに怖がるなよ とって食いやしないって
キミはまだ 自己紹介できないよね
名前がないからネ…」
「名前ってなに?
ボクはどうなるのサ!」
「さあ、ボクは知らないよ
でも あの人たち 悪い人じゃないゼ
きっとよくしてくれるよ
ゴハンだって美味しいだろ?」
…確かに食事は悪くない でも…
「冗談じゃない!
ボクをこんなところに閉じ込めて…
頼むからボクをここから出してくれよ!」
「ダメだね!
言ったろ
あの人たちは悪い人たちじゃないんだ
大人しくしていれば悪いようにはならないヨ」
そう言って、白いモコモコは大きな目でボクを見つめてニカっと笑った
それから、檻の中にいる間、モコモコは時々ボクの話相手になってくれた
あ、モコモコじゃない…
ウィードだ…
ヒト達はアイツのことウィーちゃん と呼んでいた
ウィードは変わったヤツで、太い縄を首の輪っかにつけられると大喜びしていた
ヒトがいない間にウィードは にかっ と笑って言った
「あれはヒトがボクを引っ張ってるんじゃない…
ボクが引っ張っているのサ♪」
おめでたいヤツだ…
ボクはだんだんウィードのことが好きになった
だけど、僕とウィードと仲良くしようかと思うと、別れがやってきた
ボクはもっと小さな箱にいれられて、その場所を後にした
別のヒトと一緒に暮らすことになり、家も移ったのだ
新しい家にすっかり慣れて、家の中ではボクは閉じ込められることもなく、自由にふるまえるようになった
すると、ボクの主人はたまに ウィードと暮らした家に訪問するとき、ボクを同行させるようになった
ボクは同族の猫達とはあまり仲良くできなくて、その家も、檻の中しか知らなかったから、なんとなく落ち着かなかった
ウィードは相変わらず大きなくりくりした目でボクを見つめて、「よろしく コタロウ♫」と言ってニカっと笑った
何度か訪問したその家に行くことも今はなくなった
そこを訪れるとき、ボクはいつも、箱の中にオシッコをしてしまったので、主人はボクにとって外出がストレスになっていると思ったらしく、同行させるのをやめたようだ
そうしてウィードに会うことはなくなった
今朝、急にウィードのことを思い出した
「やあ、幸せにしているね
ボクの言ったとおりだろう?」
「うん あの時はありがとう 話相手になってくれて…」
「素直ないい子だ
幸せになれよ」
「??? どこかに行くの?」
「いいや すぐ近くで見てるさ
いつも みんなのこと見てるさ♪」
それからウィードの声は聞こえなくなった
その後、明るくなった空の向こうに、星が一つ増えていることがわかった
ありがとう…話相手してくれて

***
師匠:コタロウの保護主様の家のスピッツ、ウィードくん が今朝亡くなりました
15歳 でした
私と親方はウィーちゃんの調子が悪いと聞き、おとといの夜、会いに行きました
起きている間は痙攣の発作を起こすことが多く、鎮静剤を打ってあったため、静かに眠っていました
私たちが居る間、目を覚ますことはありませんでしたが、小さい寝息と一緒にお腹が動いている 確かに生きているのを確認できましたが、目を覚ましている間の方が、苦しいのかもしれません
病院の先生からのいくつかの提案の一つには安楽死も含まれていたそうですが、ご家族は、それだけは容認することができなかったそうです
誰もが突きつけられる 命に関わる残酷な選択、どれを選択しても、それが正しいとか、間違っているとか、決めることはできません
家族が苦しんで考えたうえ、とった選択は、どの選択でも間違っていることはない
お母さんは、毎日出かけることなく、ウィードくんのそばにいました
妹さんは、病院で注射等の処置を習って、処置をし、定期的に 自力で開けることができない口にシリンジで水を落とし、水で濡れてしまったクッションやタオルを取り換えて清潔を保ち、床ずれができないように寝返りをうたせることを続けました
たいへんだったと思いますが 幸せなコだと思います
家族がどこかに出かけるときは必ず一緒に連れて行ってもらっていました
だから旅行は必ず、犬が同行できる場所ばかりでした
食いしん坊で、冬は必ずストーブでウィーちゃん用の焼き芋が暖められていました
スタバのチョコチャンクスコーンが大好きで、チョコを抜きでもらっていました
国道通るとスタバの前でいつも吠えてたね
虹の橋の向こうで、大好きな おいもさんや スタバのスコーン をお腹いっぱい食べてね
コタロウの話相手になってくれて本当にありがとう

家族のお出かけには必ず同行していました

ウィーちゃんの誕生パーティー 城ケ崎のお気に入りのカフェで

美術鑑賞するときは大人しく… おりこうなコでした

青空の下が大好きでした
最近のコメント