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譲渡会には里親募集の側で参加した事が有る。
中学生の時、仔猫を拾つて飼つてゐたのを、引越の時に逃がしてしまひ、避妊手術を受ける前に妊娠させてしまつた。
生後八ヶ月程で母になつた縞三毛の愛猫は、月満ちて三匹の仔猫を産んだ。白の男の子、茶白の男の子、黒白の女の子だつた。
初めての出産だつたにも関はらず、朝起きると既に事は済んで居り、母になつた愛猫は私の布団の足許で、満足さうに子らに乳をやつてゐた。
市の譲渡会に申し込み、里親を募つた。母親似の綺麗に張った目と耳を持つた仔猫達は、産まれたての頃から撮り溜めた写真で作つたアルバムと、愛らしい顔の缶バッジと共に、それぞれ優しさうな家族に貰はれて行つた。
愛猫の名は“咲羅”(さくら)。
十歳で虹の橋を渡つて行つた。
次男の提案で、譲渡会で出逢つた猫の写真を夫にメールで送つた。
こちらから掛ける間もなく夫から電話が掛かつて来て、やはり、「あーちやんだな。」と云ふ返事であつた。
さうして家に来たのが寧々だ。
“寧々”と云ふ名前は次男が付けた。
全く物怖ぢしない猫で、家へ来たその日から、まるで元から家の子だつたやうに振る舞つてゐた。
寧々は十六年、生きた。
大人の猫としか暮らした事の無い息子らは、一度仔猫を飼つてみたいと言つてゐたのに、寧々が虹の橋を渡り、また新しく猫を迎へやうと云ふ話をすると、また大人の猫が良い、保護猫が良いと言つた。
「仔猫を飼ふチャンスぢやないの。」
さう言ふと次男は、「仔猫は可愛いから、誰かが貰つてくれるから。」と言ふ。長男も黙つて頷く。
毛色も猫種も何でも良いと言ふ。
ただ、また女の子をと云ふ事だけが、息子らの希望だつた。
息子らは私達よりもずつと、“保護猫”と云ふものを判つてゐるのだ。
また黒猫を飼ひたいね、サビ猫も可愛いわよ等と言ひ合つてゐた夫と私は、自分達を恥ぢた。
寧々。
あなたのお陰で、兄ちやんもキミちやんも、とても優しい人に育ちました。
ありがたう。
老猫の幽き寝息桜冷え
膝へ来る盲の猫や花の冷え
亡くなる二年前に、寧々は視力を失つた。桜の頃に詠んだ句。