「シマが死んじゃったよ・・・。」と隣の部屋に行っていた彼女に
言おうとして振り向うくと彼女はすでに僕の隣に立って泣いていました。
「シマが・・・シマが死んじゃった~!!!」
ひたすら大きな泣く彼女を見ていた僕は逆に冷静でした。
というより現実を直視するのが嫌だったのかもしれません。
プルルル・・・。早朝のこんな時間に電話が鳴りました。
それはお世話になっている動物病院の先生からでした。
僕がシマを看ている時に彼女が動物病院の留守電に電話をかけて
いたらしくそれを聞いた先生からの折り返しの電話でした。
シマがたった今亡くなった経緯を話すと先生は知り合いの葬儀屋さんを
紹介してくれました。また、亡くなってしまうとウンチ等が出てしまうので
オシリも穴や鼻をガーゼ等で塞いであげて下さいと教えてくれました。
葬儀屋さんに電話をするにはまだ早すぎる時間なのでとりあえず
先生の言うとおりオシリと鼻にガーゼを詰める事にしました。
「シマが生きてたら絶対怒るよなぁ・・・。引っ掻くよなぁ・・・、絶対。」
そう思いながらオシリに丸めたガーゼを入れてみました。
すんなりとそれは入りました。逆にそれが寂しかったです。
シマが入る大き目のダンボールを探してカッターで加工して
タオルに包んだシマをそこに寝かせました。
「寝てるみたいだね・・・。」落ち着きを取り戻した彼女が言いました。
寝ているシマの周りにはシマが好きだった洋服やおもちゃ等を入れて、
僕達はただただひたすらシマを撫でていました。
シマの死に顔は寝てるみたいで今にも起き上がりそうな感じでした。
するとタロがトコトコとやって来てシマの寝ているダンボールを
覗き込みました。
「クンクンクン・・・。」ひたすらタロはシマの顔の匂いを嗅いでいました。
「死んじゃったの・・・?」そう思ったのかタロは匂いを嗅ぐのを辞めて
ず~~~~~~っとシマの顔を見ていました。
そんなタロの顔を見て今まで冷静でいられた僕は急に涙がボロボロと
溢れてきました。
「シマはやっぱり・・・本当に死んじゃったんだ・・・。もう会えないんだ。」
その時の僕の頭の中にはシマに対しての良い思い出よりも
「○○をしてあげれなかった!!」といった後悔の念ばかりが浮かんで
きてどうしようもないやるせなさで一杯でした。
10年も一緒に暮らしてきて何もいいことしてあげられなかった・・・。
どうしようもない飼い主だった・・・。ゴメンねシマ・・・。
ひたすら僕達は泣き続けました。
朝になって彼女が動物病院に紹介してもらった葬儀屋さんに
電話を入れました。「ええ、そうです。名前はシマです。よろしくです。」
泣きながら彼女は電話口で話していました。
すぐにお迎えの車を寄こしてくれるとの事でした。
「ピンポーン。」
お迎えの人が来ました。玄関を開けると小さな棺を持った中年の男性
が立っていました。
「棺にネコちゃんを入れてあげて下さい。私は車で待ってますから。」
棺は人間が亡くなった時に入るようなとても立派なものでした。
「シマ・・・。シマが好きだったもの全部入れておいてあげるからね。
いつでも一緒だからね、寂しくないからね。」
そう言いながらシマをダンボールから棺に移してあげました。
ひととおりの物を棺の中に入れて僕達は葬儀場に向いました。
車の中では寝不足と泣き疲れのせいか殆ど会話はありませんでした。
ず~っとシマの事を撫でてあげていました。
葬儀場に着いて通された会場はもの凄く立派でビックリしましたが、
ちょっと大げさな気がして落ち着きませんでした。
車を運転してきた男性が進行役のようで僕達に話しかけてきました。
「え・・・、コホン。さて、葬儀を始めさせて頂きます・・・。
亡くなられたネコちゃんのお名前は「ヒマ」ちゃんでしたよね?」
「ヒマ?」僕達は一瞬固まりましたが次の瞬間プッと吹き出しました。
彼女が葬儀場に電話した時涙声だったから葬儀場の人が聞き間違え
てしまったんでしょう。
このハプニングのおかげでちょっと楽になりました。
そして最後のお別れの時がやってきました。
火葬場でシマを焼く時間になりました。
寝てるようにしか見えないシマの体に僕達は何度も何度もキスをして
何度も何度も話しかけました。そしてこれからも一緒だよと話しました。
焼き終わるまで待合室で待っている間僕達はシマとの思い出を沢山
話しました。
そしてあの白い猫はやっぱりタロのお母さんで最初はタロを迎えにきて
それをシマがこう言って引き止めたんじゃないかなと思ったのです。
「タロのお母さん、タロは私の可愛い可愛い弟。ガンになっちゃったけど
まだまだ一生懸命に生きようとしてるんだ。だから代わりに私が行くよ。
なに、私は野良もやったし家ネコもやったし色々と大変だったけど
凄く幸せなネコ生だったから・・・。とってもタロの事大好きだから。」
「焼き終わりました。」と先程の男性がシマの所へ案内してくれました。
「ぅわ~~・・・。」骨になったシマを見て不思議な感動の声が出ました。
「これがシマの骨・・・。」タロの事をビシビシしごいていたシマの体から
想像がつかないくらい華奢で細い骨でした。
骨壷の他に何時も身につけていられるようロケット型のネックレスに
小さな骨を入れてもらい、僕達は帰路につきました。
帰りの車の中の記憶はあまり残っていません。
家に着いて玄関を開けるとチョコンとタロが待っていました。
でも
いつもその横に並んで待っているシマの姿はありません。
いつもタロにゴハンをあげようとするとシマが横取りする。
いつもタロが辛そうに横になっているとシマが横に来て舐めてくれる。
いつもお風呂に入っているとシマが浴槽の淵に登ってお湯を舐める。
いつもベランダに雀が来るとシマが「ニャ・・・、ニャ」と鳴く。
いつも僕達が泣いたふりするとシマが側に来て顔を舐めてくれる。
そんな当たり前の日常が当たり前でなくなった瞬間でした。
僕達はしばらく何もする気が起きませんでした。
仕事場でもシマの事を思い浮かべてはトイレに行って泣き、
ウチに帰ってもすぐボロボロと涙をこぼす毎日が続きました。
今思えばペットロスだったんだと思います。
そんなある日会社で仕事をしていると彼女からメッセンジャーで
「こんなサイトを見つけたよ。」とHPのアドレスが書いてありました。
そのアドレスをコピーしてブラウザに貼り付けてリターンキーを押すと
「虹の橋」というタイトルのついた詩でした。
(皆さんはもうご存知だと思いますが、知らない方は「虹の橋」で
検索してみて下さい。)
途中まで読んで僕はドバドバと涙が溢れるのを抑えきれませんでした。
仕事場だったのでトイレに駆け込み暫く個室で泣き続けました。
席に戻り改めてその詩を読み始めました。
・・・。心の中がスッキリと晴れてきた感じがしました。
そして僕は思いました。
そう、シマにもう会えないんじゃない。シマは天国にいて他のネコ達と
楽しく暮らしているんだ。
僕達もいずれ天国に行く事になったらまた会えるんだ・・・。
だからシマに再会した時に恥ずかしくないよう今を一生懸命生きよう、
タロと、そしてこれから出会うであろうネコ達と幸せに暮らそう。
うんとうんと幸せになろう。
誰が書いたか分からない詩によって僕達は救われた気がしました。
今タロは一生懸命頑張って生きています。
ガンが発見されてから半月も持たないと言われたタロがあとちょっとで
2年が経とうとしています。
シマの分も幸せに、そして長生きして欲しいと思います。
そして新しく家族になったクリ。
産まれてこのかた外に出た事がない超箱入り娘です。
健康にスクスク育って欲しいです。
みんな家族です。僕達の大切な子供達です。
最後に・・・。
シマには僕達が教えるよりも沢山の事を教えられました。
これからも何かにつまづいた時、シマとの思い出を振り返って頑張って
行こうと思います。
ホント、ありがとうね、シマ。
(おわり)
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