良い加減に歌いながら、倉庫のドアをあける。
「シャー!!」 朝のご挨拶、いただきました。
昨夜入れたカリカリは完食、水に猫砂が少し入ってるから替えようとキャリーを触ったとたん、
「ガターーン!! ぎゃぁぁぁーー!! しゃぁーー!」
びっくりしたーーチビのくせに威嚇力、半端ないし。
そ~っと、水入れを出して新しい水に変えた。
だけどカリカリ入れはさらに奥なので、キャリーのドアを全開にして突撃を食らったら怖い。
仕方ないので、網にスプーンを入れ底に少しずつカリカリをのせては器に落とす。

「ほれ、食べれ~」
早くこの声と、カリカリのカララ~ンの音、結び付けてね。
だけど、「ぅ~ぁ~ぅ~、ォ~ゥ~ゥ~、シャーー!!」てな感じで遠吠えのような威嚇。
ひゃぁ~トラ白が本気で敵認定した時に発するうなりと一緒だよ。
チビのくせに怖いなぁ。

目やにと鼻水で顔がぐずぐず。猫砂のトッピング付き。
どうしようかな~こんなに怒り狂ってると、病院に行ってもさらに怒り狂うし、暴れまくるだろうね。
診てもらって、顔を拭くのは後回しで、何か粉薬でももらえるかな?
あまりに威嚇するわ、暴れるわで、なにかする気力がしんなりとすぼんでしまった。
朝9時、いつののように猫屋敷へ。
ん?猫足りない?
と思ったら、お腹の大きい猫が、昨日の朝はいなかったが今朝はウロウロと歩いてる。
あ~~~お腹スッキリしてる。
奥様が出てくる。
「あれぇ、どっかで生んできたんかねぇ。」
「育てばそのうち連れてくるんかいねぇ」
はぁ~呑気だな。みんな、さらっちゃうよ?
「白いのんが一匹見えないんさねぇ。あと、よそから来た子猫も。」
え?白い子も? カリカリを食べ始めた大人猫。
そのすきに段ボール箱を取り出す。
ほんとだ、チャトラ3、白1しかいない。白いのは耳とシッポがうっすらと灰色のがいない。
白の小さい頃にそっくりな子だよ。
「また親猫がどっかへくわえて行っちゃたんかねぇ。」
…そうかもしれないし、死んだのでくわえて行ったのかもしれない。
それとチャトラのママ猫、具合が悪そうだった子がいない。
「具合悪いんで、どっかで死んじゃったかねぇ。」
否定はできない。具合悪くても、食べなかったら、良くならないもん。
8匹生まれたというけど、わずか1っか月くらいで、もう半分。
ママ猫も、4匹中1匹がいなくなった。
自然淘汰というけれど、餌がもらえてもこんな状態。
餌やりさんがいなかったら、確かにノラ猫は増えないよね。
厳しい世界だな・・・
チビ猫の顔を拭きながら、現実の厳しさがのしかかってくる。
昨日、よそから来たチビ猫を捕まえたけど、白いほうがもっと大変だったのかな。
何にもしてあげられなくて、ごめん。
だんだんと減っていく。つらいな~。
今日は先生、いるかしら。
午前中に電話してみたがでない。
午後になってもう一度。・・・でない。
4時過ぎ、やっと出る。
相変わらず、物静かな先生。
「あの~、野良猫を保護したんですけど、ものすごく暴れるんですが、見ていただけますか。」
「…はい。」
「じゃぁ、15分ほどで行けると思いますがいいでしょうか。」
「…はい。」
慌てて、キャリーを車に乗せ出かける。
先生の家の敷地へ~ 脇を見ると、う、牛が~。草を食べてるけど、近い~。

玄関前には猫たちがお出迎え。
以前、先生のお母さまが居ついた猫というような言い方をしていた。
さすがに同じ”居ついた猫”でも毛艶がいいね。
「ごめんくださーい!」受付とかはないのでずかずか入っていく。
電気もついていない薄暗い部屋から先生が出てくる。
「この子、猫風邪なんですが、威嚇が凄いので何か粉薬だけでももらえないでしょうか。」
「ふ~ん・・・。」
注:先生はものすごく声が小さく、ほぼ無声音、ひそひそと話をします。
そのイメージでお読みください。
キャリーを受け取った先生、部屋の奥の大きなケージにキャリーを入れてしばらく見ている。
その間もチビは「シャー!! っぅ~ぉ~ぉ~ぅ~」と威嚇したり、唸ったりし続ける、
注射を用意。
おもむろに、そばに置いてあるフェイスガードを装着、そして厚い皮の長手袋も装着。

そのままキャリーに手を突っ込む。
ギャァァーー!! バシュッ!! バシュッ!!↼ チビ猫、口から爆発させながら発射するような音で威嚇。
先生:「すんげぇな、こりゃ」
タオルでガード、暴れる猫と格闘しながらも抑え込む。
「ギャァァ!! ギャァ! ギャァァ!!」ガタガタと暴れるチビ猫。
ぉ~お~ぅ~ぅ~・・・・チビ猫、唸る。
先生は注射をしたようだ。
キャリーの扉を閉め、再び奥から何か薬をもってやってくる。
再び、バシュッ! バシュ!!と威嚇音。もはや シャー!なんて生易しいもんじゃない。怖い・・・。
キャリーを開け、また手を突っ込む。
今度は顔を拭き、目の周りに薬を塗ってくれたようだ。
ギャァー!! ギャァー!!
今度は茶色の液体が入ったスプレーをキャリーの中に向かって、シュッ、シュッ。
チビ猫が嫌そうな顔をしたのがおかしかったのか、
「クッ、クッ、クッ・・・ふふ・・・ククククッ。」
こんな時でも笑えるんだ~すごいな~
・・・・・・・・・・・・・・・・
キャリーの扉を閉め、先生は奥の部屋に入っていく。
この部屋も奥の部屋も、たくさんの蛍光灯が天井に設置されているのだが、一つもつけない。
薄暗い中、白熱球のようなライトを一つ、つけただけ。
ビニール袋持って戻ってきた。
「粉薬を5分の一くらいね。」 分包された粉薬をさらに微妙な回数に分けろと言う。
「一日に何回ですか?」
「あ、三回。あとは・・・・口につけて。」
よく聞き取れない、いつもそうなのよねぇ。
「タオルとかで猫抑えて、目薬つけてやって。引っかかれたら、流水でよく傷を洗って。」
引っかかれる事前提か。
「じゃ、五千円ね」
ようやく終わった。
あの凄まじい診察で五千円か。
チーを見てもらってる病院の若いAHTさんには、とてもじゃないけど、保定とか頼めないよねぇ。
いつも通り、すべてが先生一人で終わった。というか先生しかいないしね。
はぁ~~、慣れてきたら、目薬出来るかなと思ったけど、タオルで抑え込んでやらなくちゃ?
なんか無理・・・チビ猫、野生っぷりが半端ない。
先生は冷静に、うろたえる様子もなく、診察してくれた。
今更ながら、チーは拾った時からおとなしく、家猫っぽかった。
カリカリをお腹いっぱい食べたら、ナデナデするとゴロゴロ言ってくれたし。
今度のチビ猫は思ってた”猫”とは種類が違う。
家猫じゃないよね。
まさに野生種。
はぁ~~~ため息とともにキャリーをもって、病院を出た。
保護活動してる人って、こんな思いしてまでやってるのかな。
怖い・・・。
ちゃんと薬、塗ってあげることが出来るんだろうか。
なんだか、調子づいて出来もしないことに手を出した感半端ない。
庭には、大きなハスキーっぽい犬がワォン、ワォン吠えながら尻尾を思い切りブンブン振っている。

先ほどの猫たちも敷地をノンビリとうろうろしていた。
”黒”みたいな長毛の黒もいる。
最近のノラの流行りなのかな?
あの”黒”もどこかでこうしてご飯をもらっているんだろうか。
いつ来てもここは自然っぽい病院だなと思う。
チビ猫、頑張ってお世話しても人慣れしてくれなかったら・・・。
ずっとこんな調子で威嚇しっぱなしだったら?
先生に頼んで、避妊去勢してもらって”R”という事も考えられるけど・・・。
大人になるまで縄張りを持たない猫は”R”は無理なのかな?
同じ”居ついた猫”でも先生の家の猫のように、のんびりゆったり健康に暮らせるようになればいいのにね。
それがすべての外猫に与えられたらどんなにいい事か・・・。
いろいろ考えながら、家に戻った。
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