畑の中の小道で、車の窓を開けて犬を散歩させているご婦人に話しかけた。
ご婦人は少しけげんそうな顔をして、「その人がどうかしたんですか?」と聞き返してくる。
「実は、そこの道を通る時に、犬の散歩にくっついて猫も一緒に歩いているのをよく見かけたんです。
あんまり可愛いから、いつか遠くからでもいいから写真を撮りたいなって思って。私、猫の写真を撮るのが好きなんです。」そう答える。
「ああ、それ、私の事だと思いますよ。」と返してくれた。
「今日は猫ちゃん一緒じゃないんですか?」
「あの猫はね、ウチの子じゃないの。そこの墓地のあたりに住んでいる野良ちゃんなの。
散歩に行くと出てくるのよ。いつもご飯をあげてるのよ。」
・・・そうだったのか・・・。
遠くに人家は見えるけど、ここまではかなり距離がある。
猫が一緒に散歩についてくるには遠すぎるなと思っていた。
もう何か月も前から気になっていたことだった。
車を道路の隅に停めて降りていった。
「遠くからでもいいので、写真を撮らせてもらえませんか。」
「どうぞ~、チビ君って言う男の子なのよ。その子の前にも4年間お世話して看取った野良ちゃんがいるけど、亡くなったと思ったらまた次の子が現れるのよねぇ。」
話をしながら散歩についていく。
大きなワンコはナナちゃん。もう14歳。
10年は散歩をしてあげられるかなと思って飼い始めたそう。
ナナちゃんはまだまだ元気そう。
「ナナちゃんの為にも元気でいなくちゃですね。」
とても懐こく、飛びついてくる。猫と違って大きな体全体で来るので、ちょっとビビル~
「あの墓地よ、チビ~チビ君~」
猫を呼ぶ。
警戒させてはいけないと思い、少し離れたところで様子をうかがう。
出てきた、体格のいいキジトラ。

ナナちゃんと鼻チュー♡仲良しだね。
しばらく一緒にお散歩。
そしてご婦人は持っていた手提げの中からタッパーをとりだし、蓋をあけて地面に置く。
チビ君、カリカリを食べ始める。

やはり不審者がカメラ持ってついてくるからか、チラチラこっちを見ている。
チビ君がひとしきり食べたらタッパーに蓋をし、手提げに入れる。
「カリカリを置きっぱなしにはしないのよ。うるさい人がいて、見つけるとすぐ片付けちゃうの。
そこの側溝のふたの下とかにおいてもだめ。墓地の陰においても持って行かれちゃうの。
雄だから増えないけど、喧嘩したらかわいそうだから去勢してあるのよ。でも嫌な人は嫌なのよね。
この辺は虐待とかも随分あったから。」
えっ?虐待?
ほのぼのとした光景を写真に撮りたいと思っただけなのに、そんな生々しい話になるなんて。
「あそこのビニルハウスが見えるでしょ?その向こうに屋根だけ見える家、あそこの人がひどいのよ。
あの家の前にね、猫の首だけぶら下げてあったのよ。
空き家だったころは随分と捨て猫もいたんだけど、今はすっかりいなくなっちゃったわ。」
うーーん・・・
新しい家主にしてみれば、住み始めて見たら、次々に庭に猫を捨てていかれたんじゃ、猫も人も嫌いになるよね。
結局は安易に捨てる人間も虐待の共犯者だ。
ご婦人の隣に並んで歩く。
チビ君はつかず離れず、一緒にお散歩している。

この様子を大きな道路から目撃したんだね。
少し歩くと今度は段ボールが置かれている。
中にはカリカリが。
「ここはモモちゃんって言う猫がいるのよ。今日は見当たらないわね。ここはまた別の人がお世話しているの。でもこういう風に置きっぱなしだと持って行かれちゃうし、目立つのよねぇ。箱に入れてあげるボロがないって言うから、アタシの小さくなった服をあげても一言もお礼を言わないのよ。」
お世話をしている人がみんな仲がいいとは限らなそうだ。
そこでまた元来た道を戻っていく。
「チビ君、なかなか精悍な顔してるね♪体つきもしっかりしてるし、かっこいいね!」
褒められたのがわかったのか、近くの木に登ってさらにかっこよさをアピール。

そしてまた近くにやってきてくれた。
警戒心の強そうな子だけれども、お世話をしてくれる大好きな人と仲良く話をしているからキケンはないとわかっているのかな。
やはり頭のいい猫だね。
所々で、ご婦人はタッパーのふたを開け、道路に置く。
チビ君、少し間をおいては食べる。
「家には4匹猫がいるの。大きい子はね、10キロよ。」
「それは大きいですね!抱っこするとき、よっこらしょって感じですね。」
「そうなのよ~、みんな元はノラちゃんだったのよ。チビ君も連れて行ってあげたいけど、もうこれ以上はね。でもしっかりここで生きているから、出来る限り、お世話してあげるの。」
「いつもこの時間にお散歩してるんですか?」
「私、朝4時に目がさめちゃうから5時ごろと、午後3時ごろと、あとは夜ね。」
「朝もまだ真っ暗じゃないですか?凄いですね~」
「懐中電灯もってね、ナナちゃんと毎日お散歩してるから、別になんてことないのよ」
元の場所まで戻ってきた。
「今日は突然に、ありがとうございました。いい写真が撮れたと思います。ナナちゃん、バイバイ。チビ君、元気でね。」

そう言って別れた。
餌やりさん、と一言でいうけど、いい加減な気持ちじゃできないな。
たしかに365日、雨だって、雪だって猫はご飯を食べるんだものね。
友達のMさんが大雪の日にも”訪問”したって言ってたけど、みんなすごい。
「ほのぼのとした光景」
道路から見たときはただそう見えた。
実際に会って、話を聞かせてもらって、ほのぼのだけじゃないって知った。
今までも、これからも、見ているようで本当のことを見ていないことって沢山あると思う。
本当の事、もっともっと知りたいって思った出来事でした。
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