
モモにとってこの日は、間違いなく一生で一番うれしい日でした。
私達は、その日も、縄張りを探検していました。
私達の家は自宅兼会社で、二階が私達の棲家、一階が会社と台所、お風呂です。
縄張りとは一階のことです。
台所に入ると、一匹のゴキブリがいました。
私がもたもたしていると、後ろにいたモモが、突然ジャンプしました。
そして2~3m先のゴキブリの手前に着地、同時に右手でパーンとゴキブリを叩き、あっという間に仕留めました。
見事としか言いようのない動きでした。
私は感激して「モモ、すごいやないかー」と叫び、モモの背中をポンポン叩きました。
モモは、嬉しくて、嬉しくてたまりません。
私の周りを何度も何度もグルグル回って、体中で喜びを表します。
何度も何度もグルグルとずっと回り続けました。
その日からモモは、夜になると台所にゴキブリ取りに行くようになりました。
モモは、真っ暗な台所でゴキブリが出るのをじっと待ちます。
数時間、全く動かないこともあります。ゴキブリに悟られないように、気配を消します。
そしてゴキブリが顔を出した瞬間、全神経を集中して一瞬のうちにゴキブリを仕留めます。
この優秀なハンターのテクニックは、誰から教わったものでもありません。
眠っていた記憶が呼び起こされたような感じです。
野生時代の先祖の記憶は遺伝するものなのでしょうか?
モモと一緒に暮らして、こういう不思議なことが時々起こりました。

モモはゴキブリを捕まえると、口に加えて階段を登り、嬉しそうに私のところにやって来ます。
最初私は、自慢したいのだと思っていました。
しかしそれだけではないことが、わかりました。
数日後、モモの帰りが遅いので、私は先に寝ました。
そして朝、目を覚まして枕元を見ると、「わっ!」死んだゴキブリがいるではありませんか。
私は、ようやくモモが自分がとった獲物を私にプレゼントしたかったのだと気づきました。
モモの優しい気持ちを知って、とても嬉しかったです。
モモは良い母親になると思いました。
野生の猫は、子猫が乳離れした後、獲物を子猫に運びます。
子猫達は、喜んでそれを食べます。
母猫は、子供が喜ぶのを見て幸せを感じます。
家族に喜んでもらいたいという気持ちは、子供の時に芽生えるのだと思います。
(補足)蚊を叩いたモモ
モモにゴキブリ以外の獲物も捕まえさせたいと思っていると、ちょうど蚊が飛んで来ました。
高さ1.5メートルぐらいのところです。私はモモに指差して、あれを獲るように言いました。
モモはそれに気づいてジャンプし、見事に蚊を叩きました。しかし蚊は死にません。
ゴキブリの場合と異なり、叩いた先が空気だからです。蚊はよろめきながらも飛んで逃げていきました。
蚊はモモを満足させるような獲物ではないので、やめることにしました。
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