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私はモモに子供を産ませたかったのです。しかしわからないことばかりでした。
子猫がたくさん生まれる、それが最大の問題でした。
仕事もあり、一人で、モモ+子猫4~5匹の世話をするのは困難でした。
発情期はとても大変で、モモに多くの苦労をかけました。
モモは、猫としては少し遅く、1歳4ヶ月で最初の発情期を迎えました。
この時の発情は激しくなく、短期間で終わりました。
2歳の時、2度目の発情が来ました。
日本猫の多くは春夏の年2回発情しますが、モモの場合は年1回でした。
個体差によるものか品種によるものか、よくわかりません。
私はこの期間、仕事の忙しさにかまけて、モモのことを後回しにしてしまいました。
モモ3歳、この年の発情の激しさはこれまでと比較にならないものでした。
モモは、今年こそ出産の機会を逃すまいと、必死だったのかもしれません。
モモは、発情期が始まると、独特なアクセントで「アーアン」と鳴きはじめます。
体の中が急に変になって戸惑い、助けを求めるように、「アーアン」「アーアン」と鳴きます。
そして夜になると、あの発情期のメス猫の特有のものすごく大きな声で鳴き始めます。
その声の大きさは想像を絶します。
モモは断続的に鳴き続けます。とても苦しそうです。
時々半狂乱になり、荒れ狂います。
私はモモに腕を引っ掻かれました。血がかなり出ました。
モモに引っ掻かれたのは、後にも先にもこのときだけです。
これまでよくケンカごっこをして遊びましたが、こっちが手加減していたつもりだったのに、実はモモのほうが手加減していたことを知りました。
モモは、朝になるとへとへとになって休みます。
この繰り返しが2週間ほど続きます。
ある夜、モモの鳴き声に惹き寄せられた雄猫が、2階の裏窓の網戸を破って侵入しました。
私は無礼な雄猫に腹を立てましたが、それ以上にモモは激怒しました。
「ウギャー」と叫んで雄猫に飛びかかりました。雄猫は恐れをなして逃げていきました。
モモは強いです。
私は破れた網戸のところに行き、窓の外を見てびっくりしました。
なんと1階の屋根の上に20匹ほどの雄猫がいたのです。
雌猫の雄猫を招集する能力はすごいです。力の限り大声で鳴いて雄猫を呼びよせます。雄猫はその声を聞き、遠くから駆けつけます。どちらも必死です。雌猫は、集められるだけの雄猫を集め、その中から相手を選びます。猫が優秀な子孫を残すため、何百万年あるいは1千万年以上続けてきた方法です。私は、猫のこの命がけの姿を目の当たりにして、とても感銘を受けました。
モモはついに家を飛び出しました。
2階の小窓の網戸を開けて出ていったのです。
殆どの網戸にガムテープを貼って動かないようにしていたのですが、そこだけ貼っていなかったのです。
モモは網戸を破るような乱暴なことはせず、器用に開けて出ていきました。
しばらくしてモモは戻ってきました。通常この状況では間違いなく妊娠しています。
私は決心しました。
人間の子ひとり育てるよりも、子猫5匹の方が楽だろうと思いました。
しかしいくら待ってもモモの体に変化が見られませんでした。
残念ながらモモは妊娠していなかったのです。
猫は発情期間中、雄を受け入れる時期と拒絶する時期があるようで、拒絶する時期に入っていたのかもしれません。
残念な気持ちと、ホッとする気持ちの両方でした。
今は只々残念なのですが、当時はホッとする気持ちの方が強かったと思います。
その後、私はホルモン剤の埋め込みによる避妊方法があることを知りました。1回の埋め込みで一年間持続します。動物病院で、その処置をしてもらいました。
時間の余裕ができるまで、モモに待ってもらうつもりでした。
翌年4歳の時も埋め込みをしました。
しかし5歳以降発情の兆候がなくなりました。
もう発情しなくなったのかと思っていたら、7歳になって再び発情しました。
また埋め込みをしてもらおうと動物病院に行くと、そのホルモン剤は製造中止になったとのこと、避妊手術を勧められました。
迷いましたが、発情はモモに与えるダメージが大きく、また産むとしても高齢出産になるので、やむを得ず避妊手術をしました。
モモは、手術がとてもつらかったようです。
家に変えると、隠れ家の押し入れに閉じこもりました。
モモは子猫の時から、何かあるとそこにこもります。
(モモの隠れ家 生後3ヶ月)
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モモは閉じこもったきり、食事を全く摂りません。
私は心配で覗き込むと、モモは「心配いらない、すぐに良くなるから」という顔をしました。
心配な時の顔は、猫も人も一緒です。モモは私の気持ちを察したのだと思いました。
私は、モモに不思議な能力があることを知っていました。
何もしないでじっとしているのが、野生の猫の傷の直し方なのだと感じました。
モモを信じて待つことにしました。
モモは、3日後に押し入れから出てきました。
元気になったようでした。
痛々しかったお腹の傷は、驚いたことに数カ月後には消えて全く見えなくなりました。
モモにさんざん待たせた挙げ句に子供を産ませられず、手術で辛い思いをさせて本当に申し訳ないと思いました。
(備考)
先日ある方から、猫の避妊用のホルモン剤の注入は、今もあるということを教えていただきました。
一時的な避妊も、生涯避妊も出来ます。生涯避妊は、2年に1回、それを一定年齢まで続ければ良いそうです。ホルモン剤の危険はゼロではありませんが、開腹して内臓を摘出する避妊手術に比べるとずっとリスクは少なく、またよけいな苦痛を猫にかけないで済みます。
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