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腎臓病などで水分補給の皮下点滴(輸液)をしている猫は、チアミン欠乏症になりやすいです。このことは現在の獣医学ではほとんど知られていません。
チアミン(ビタミンB1)欠乏症は、人の病気「脚気」のことです。発見が遅れると命を落とす、恐ろしい病気です。
早めに治療すると、容易に完治します。
1.輸液を開始して以下の症状が出たら、チアミン欠乏症の可能性大です。
①前庭機能障害 首が曲がる、まっすぐ歩けなくなる、右または左に旋回する。
首が右に傾き、右旋回するモモ。
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②歩行障害 酔っ払った時のようにフラフラ歩く。
立ち上がるのが困難。両手両足を横に広げて立ち上がろうとする。
立ち上がれなくなる(腰が抜ける)
③腹屈 首を下げて低い姿勢で歩く 首を下げて低い姿勢で歩く
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(上記英文和訳)この猫は、チアミン欠乏症の典型的な「腹屈」姿勢を示しています。この猫は、主に生魚の頭と切りくずを与えられていました。チアミン注射への反応は劇的であり、食事の変更は再発を防ぎました。
出典 https://pictures-of-cats.org/why-is-my-cat-holding-her-head-down.html
https://pictures-of-cats.org/what-causes-thiamin-deficiency-in-cats.html
④眼振 眼球が小刻みに揺れる
⑤心臓の異常 心拍数の変化、不整脈
⑥食欲不振、体重減少
2.原因
ビタミンB1は尿とともに排出されます。腎臓病になると、弱った腎臓の力を補うために大量の水を使って老廃物を洗い流そうとします。輸液による水分補給が必要となります。おしっこの量が通常の何倍にもなります。ビタミンB1の排出量も増えます。ビタミンB1が欠乏しやすくなります。
3.治療
ビタミンB1補給に尽きます。発病初期であれば、劇的に回復します。
通常必要量の100倍或いはそれ以上の大量のビタミンB1を投与します。血液をビタミンB1高濃度にし、細胞が吸収しやすくするのです。
アリナミン、今ではサプリメントの一つのように思われがちですが、これは1950年代に日本で開発された画期的な、脚気(チアミン欠乏症)の治療薬です。ビタミンB1は親水性の物質ですが、それを化学変化させて親油性も高めたものです。それにより腸からの吸収、細胞内への吸収が飛躍的に高まりました。
「アリナミン」は商品名で、正式名は「フルスルチアミン(フルスルチアミン塩酸塩)」です。
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1980年代の文献で、ネコ、犬にアリナミンを投与して治療した例があります。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jvma1951/38/7/38_7_460/_pdf/-char/ja
現在、ペット用のフルスルチアミン薬「アニビタン100」があります。液状で皮下注射します。
https://vet.cygni.co.jp/include_html/pdf/attachment/DY120098.pdf
中身は、アリナミンと同じです。
上記1の症状が出た場合は、直ちにチアミン欠乏症の治療経験のある動物病院に行ってください。
残念なことに、チアミン欠乏症の治療経験のある獣医は少ないです。チアミン欠乏症に罹る猫が少なくなったからです。猫も人と同じように食生活が改善し、ビタミンB1が配合されたペットフードを食べるようになったためです。
獣医に前もって、「チアミン欠乏症のようだけど治療できますか?」と聞いてみると良いでしょう。
モモの場合は、治療経験のある獣医が周りにいなかったので、私が自分で治療しました。
「アリナミンA」を粉末にして、それをペットフードに混ぜて投与しました。
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モモは、ビタミンB1治療を開始するこの時期、かなり深刻な病状になっていました。
モモは、自分で食事をするのが困難になっていました。
私は、時々「強制給餌」をしました。強制給餌は、食事を口元に持っていくまでは強制的ですが、最後は自分でゴクンと飲みこまなければいけません。幸いまだ飲み込む力はありました。口元まで食事を持っていくと、舌を出して口の中に入れ、ゴックンします。あかちゃんにミルクを与えているようでした。
モモは布団でおしっこをするようになりました。眼を覚まして起き上がった時、そのままジャーッとしてしまいます。家に来てから17年半以上、必ずトイレできちんとやっていたのに…。私は、モモ目を覚まして起き上がる時は、すかさずモモを抱えてトイレに連れて行くようになりました。
モモは、赤ちゃんになってしまいました。
ある文献によれば、牛の場合、自分で立ち上がることが出来ないまで症状が悪化したら、回復の見込みが薄いようです。
モモはなんとか立ち上がれます。歩いて水を飲みに行きます。
私は、大急ぎで治療を開始しました。
アリナミンAを一日1錠(フルスルチアミンとして33mg)投与しました。粉末にして、ペットフードに練り込みます。
お付き合いで私もモモと同じだけ服用します。
服用後しばらくして、モモと私のおしっこは同じ匂いになりました。ビタミンBは腸管から吸収されて血液中に入り、体中を循環し腎臓まで届きました。
(補足)糖尿病でインシュリン投与している猫も、チアミン欠乏症にかかりやすいようです。
参考文献 https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/52/2/52_177/_pdf/-char/ja
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