前回、エスキモーなど肉が主食だったの人たちの実例をもとに、糖尿病、肥満の原因が炭水化物にあることを説明しました。
猫の場合も、炭水化物の摂取量が増えたことが、糖尿病、肥満、循環器疾患、心臓病をもたらしたと考えて間違いないと思います。
完全室内飼いが一般化して運動不足になったことも、それに拍車をかけています。
人の実例を出すと、「猫と人とは違います」と言われそうですが、実際猫も人も体のつくりはあまり変わりません。
とりわけ生体内の代謝のメカニズムは、ほとんど一緒です。
例えば、猫の薬はほとんど人の薬の転用です。
ラベルが猫用となっていても、中身は人と全く同じです。
人の薬の転用は悪いことではありません。
人の薬も、発売する前に、ネズミを使って実験して有効性を確かめるのです。
人にもネズミにも効くものは、大体猫にも効きます。
過剰な炭水化物が、グリコーゲンや中性脂肪になって貯蔵されることは、猫も人もネズミも皆同じです。
肉食だった頃のエスキモーの人たちには、糖尿病が存在しませんでした。
猫も、炭水化物の低い食事を摂ると、糖尿病に罹らない可能性が高いです。
さて、肉食の高タンパクの食事が、腎臓に良いかどうかという問題です。
腎臓病を患うと、一般にたんぱく質の摂取量を制限します。
その理由は、腎臓の機能が落ちると、たんぱく質由来の老廃物が排出出来ずに蓄積され、腎機能のさらなる悪化や尿毒症を起こすからです。
しかし腎機能が健全なうちは、たんぱく質由来の老廃物はきちんと排出されます。
それなら腎機能を良好に保つため、むしろたんぱく質を十分に摂るべきとも考えられます。
ネットで、「猫 腎臓病 高たんぱく」で検索すると、たんぱく質制限派、高たんぱく賛成派、中間派に見解が別れます。
①たんぱく質制限派…低タンパク質フードの紹介サイト(ⅰ)
「腎臓に負担をかけないためには、タンパク質の含有量が多すぎないキャットフードがおすすめです。
タンパク質の割合が24%~26%程度のキャットフードが最適です。」
②高たんぱく賛成派…「K9Natural」(ⅱ)
生食のフード会社です。
猫が腎臓病を起こす第一の原因は、ドライフードを食べることによって、圧倒的な水分不足になることであるとし、腎臓の健康維持のためには、タンパク質を多く含む肉中心の食事が必要だとしています。
③中間派…「コルディ研究室」(ⅲ)
「低タンパク食がヒトや動物の腎機能低下を防ぐという明確なデータはありません。
腎臓病であってもそれほどタンパク質を制限する必要はないという考え方が最近注目されています。
※タンパク質の過剰摂取をお奨めしているわけではありません。」
制限派、賛成派いずれも自己の商売に利する見解なので、ここではコメントを控えます。
中間派の、「低たんぱくが腎機能低下を防ぐという明確なデータがない」というのは事実だと思います。
どこかに明確なデータがないだろうか?
と考えました。
エスキモーの人たちのことが思い浮かびました。
彼らは、昔に比べて炭水化物の摂取量が増えたとは言え、まだまだ肉のウエイトの高い食事をしているはずです。
そして興味深い文献にたどり着きました。
アラスカエスキモーと北米インディアンの人たち(やはり狩猟民族)の腎臓病に関する論文です。
「Risk Factors for Chronic Kidney Disease among American Indians and Alaska Natives」(ⅳ)
これによると、エスキモーと北米インディアンの末期腎不全の発生率は白人の2倍です
やはり肉食は腎不全を招きやすいのか?
…
ところが、良く読んでみると…
何と末期腎不全になった人の4分の3が、糖尿病が原因していたのです。
糖尿病の合併症は血管に出ます。
糖尿病で目が見えなくなるのは、網膜の毛細血管が損傷を受けるからです。
ブドウ糖はたんぱく質と結合しやすく、血液中のブドウ糖濃度が高くなると、SOD(スーパーオキシドディスムターゼ、活性酸素を除去する酵素)に結合し、SODの働きを止めてしまいます。
そのため、血中の活性酸素が暴れまわり、血管の内皮細胞を破壊してしまうのです。
腎臓には老廃物を排出するネフロンという組織があり、その中に糸球体という毛細血管の塊があります。
活性酸素はその糸球体を破壊します。
このようにしておこる腎臓病を「糖尿病性腎症」と呼びます。
エスキモーの人たちの腎臓病患者の4分の3は「糖尿病性腎症」だったのです。
高炭水化物の食事は糖尿病を招く。そして糖尿病は、腎臓病を引き起こす。
腎臓病になってもないのに低たんぱく高炭水化物の食事を与えて糖尿病を招き、ひいては腎臓病を引き起こす。
いかに愚かなことかというのがわかります。
京都市動物園のライオンのナイル君。
23歳で腎臓が悪くても、生肉食べて頑張っています。
出典:産経新聞(ⅵ)
動物園には、フード会社の宣伝マンのような獣医さんと違って、日夜動物たちの健康管理に取り組んでいるプロの獣医さんがいます。
ところで、膵臓にも腎臓にも、ニュートラルな栄養素があります。
脂肪です。
脂肪ほど、誤解されている栄養素はありません。
脂肪を贅肉と考えている人が、未だに少なくありません。
脳は、水分を除けば、60%が脂肪で出来ていることをご存知でしょうか?
シナプスという、神経細胞をつなげて情報伝達をする場所は、ほとんど脂肪で出来ています。
全ての細胞の細胞膜は主成分が脂肪で、栄養素と老廃物の出し入れを行っています。
脂肪は、たんぱく質と同様に体を作る重要な物質なのです。
脂肪は高カロリーだと言われ嫌われます。
ダイエットブームがもたらした悪弊です。
確かに脂肪は9kcal/gで、炭水化物4kcal/gの2倍以上です。
しかし考えてみて下さい。
お茶碗のごはんは、パクパク食べておかわりも出来ますが、バターをパクパク食べられますか?
炭水化物を1000kcal摂るのは割と簡単だけど、脂肪を1000kcal摂るのは、日本人にはかなりキツイです。
日本は残念ながら、栄養学がとても遅れています。
ネットで見ても嘘と俗説が蔓延しています。
血糖値の上昇を表す指標に、GI値(グリセミック・インデックス)というものがあります。
食品を摂取した際の血糖値の上がり具合いを、ブドウ糖を100として相対値で表したものです。
この数値を、ネットで見ると嘘ばかりなのです。
あるサイトでは、トリ肉45、バター30となっています。
炭水化物を含まない食品が何故45だったり、30だったりするのか?
日本語検索では当てにならないので、英語で検索しました。
すぐにこれが出て来ました。
「Glycemic Index Guide」(ⅴ)
ほとんど全ての食品のGI値がわかるようになっています。
それによるとトリ肉も0、バターも0、当然です、糖類0ですから。
ちなみに豚肉も0、とんかつは50となっています。
脂肪は、肉食動物にとって代謝しやすい栄養素です。
必要によってブドウ糖に変換し、必要によって貯蔵できます。
肉食動物の餌は、脂肪がたんぱく質とほぼ同量あります。
たんぱく質だけでなく脂肪の量を増やせば、本来の肉食動物の食事に近づけることが出来ます。
日本人は、糖尿病が多い民族です。
狩猟採集がメインだった縄文時代のなごりでしょうか?
2型糖尿病の人は、当時の遺伝子を受け継いでいるのかもしれません。
肉食中心の食生活にすると、良いかもしれません。
(本稿は、一生物化学者の学術的な見解です。それを越えるものではありません。)
出典
ⅰ)
https://www.excite.co.jp/petfood/ranking-kidney-support-catfood/#:~:text=%E9%AB%98%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%83%91%E3%82%AF%E3%81%AA%E3%82%82%E3%81%AE%E3%81%AF,%E3%81%AE%E3%82%AD%E3%83%A3%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%95%E3%83%BC%E3%83%89%E3%81%8C%E6%9C%80%E9%81%A9%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82
ⅱ)
https://www.k9natural.jp/column/pet/11.html
ⅲ)
https://lab.cordy.monolith-japan.com/cat-kidney-iow-protein/
ⅳ)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2821946/
ⅴ)
https://glycemic--index-net.translate.goog/?_x_tr_sl=en&_x_tr_tl=ja&_x_tr_hl=ja&_x_tr_pto=sc
ⅵ)
https://www.sankei.com/article/20170919-KEV5QXMSCJKKRCJZJV2PEYRXRU/
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