ゲンさんちの猫

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平成17年夏に猫を保護してより飼育中の初心者です。

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日記連載創作猫物語、「虹になるまで」 第九話 その五
2009年12月19日(土) 479 / 20

             五

 泉の周りではみんなが心配そうに何の変化も起きない水面を見つめたままだ。

 まとまった気泡が上がってきた時、目を剥いて驚いた。

「わっ」

「どうしたのだろう」

「何があったんだ」

「チップは大丈夫」

「まさか力尽きたのではないだろうな」

 真相の分からない猫たちの心配する声で泉の周りは騒然となっていった。


 泉の中深くでは、閉じた目も開くこともなく沈んでいくチップ。

 離れ離れになりながらピースも同じように沈んでいく。

 しかし、そこにはチップの気持ちが通じたのかまだ輝きを残していた涙が待ち構えていた。

 輝きも失われるかと思われた瞬間、ピースの体が沈んできてついに触れることが出来た。

 暗く沈んでいた泉の底で七色の輝きが瞬いた。虹の中にいるように明るさが広がっていく。

 水面を覗き込んでいた猫たちのもとにもその光が届いていた。

「今の見た」

「ああ、見たさ」

「輝いたよ」

「やった。チップが成功したのかな」

「水が七色に輝いている」

 泉の周りにいる猫たちは美しい水の変化に見とれている。

 飛び交うホタルの明かりしかなかった泉の周りが、水中の輝きでほのかに虹色に染められている。


 涙に触れたピースの体は同化するように七色の輝きに包み込まれた。

 輝く光の球となったピースが泉の底に沈んだままのチップの
側へやってきた。

 チップを起こすかのように何度も体に触れている。

 しかし、チップが目を開けることはなかった。泉の底で水の動きに合わせるように漂っているだけだった。瞑ったままの目には虹色に輝く光も見えていない事だろう。

 光の球からは、別れを惜しむ涙のように光の粒が零れ落ちてきた。

 チップのそばで佇んだまま動こうとしない。

 光の球から落ちた七色の輝く粒でチップの周りが埋め尽くされた時、思いを断ち切るように、水中に光の粒を残しながら真っ直ぐに水面を目指し始めた。
 

 泉の周りは、水中からの輝きが次第に強くなっていく。

 突然、七色に輝く光の球が猫たちの前に飛び出してきて空中に駆け上がった。

 つながる光の帯からは、輝く七色のシャワーが降り注いでくる。

 泉の周りにいた猫たちはきらめく美しさに呆然と見上げていた。

「ピースが虹になって帰っていく。綺麗、きっとあの仔の澄ん
だ心の色なのだわ」

 チャーミーが涙声で見つめている。

「俺たちの分までしっかり生きるんだぞ」

 チップと言い争った初島の猫も、喰ってしまうといったことなど忘れ見上げている。

 飛び出した光の球は見上げるおばさんのところへ静かに降りて来た。

「ピースなのね。さようなら。現世ではいっぱい楽しい思い出を作るのですよ」

 光の球は、おばさんの頬を流れる涙を拭うように触れると上空へ登った。泉に集まる猫たちの上を名残惜しそうに飛んでいたかと思うと気持ちを振り切るように見返り岩の方へ飛び去った。

 上空には光のシャワーが泉を取り巻くように残されていた。

「チップ、やりましたね」

 おばさんは小さくつぶやきながら遠ざかる光の球をいつまでも見つめていた。


 見返り岩で現世の様子を見つめているヤマネコは気がきでなかった。

 現世の様子にも変化がない。

 泉の様子も伝わらない。

 レオは泉の方を凝視したままだ。

 その時、泉全体が輝いた。真っ暗だった丘陵に突然明かりが灯ったように輝き始めた。

「七色の、七色の光がこちらへ来ます」

 いつも冷静なレオの声が上ずっている。

 ヤマネコも振り返り光を見た。

「あいつやりやがった」

「ええ、成功したんですね。虹になってやってきますよ」

 光の球は七色に輝く光のシャワーを落としながら見返り岩にやって来た。二匹の上でゆっくり飛び始めた。

「とうとう、帰れるな。俺の分まで生きるんだぞ」

 岩の上からヤマネコは見上げている。旅立つ息子を見守るような誇らしい表情だ。

「どうも最近涙もろくなったようです。旅立ちの日に涙は不要ですね」

 見上げるレオの頬には光るものがあった。しきりに前足で顔を拭っている。

 光の球は二匹の上で礼を言うように上下しながら旋回すると、丘陵を下り始めた。

 長老がいる橋のたもとへ一直線に下っていく。

 二匹はじっと飛び去った光の球を見ていた。

 いつまでも。

 いつまでも。

 通り過ぎた後には虹のように七色の帯が残っていた。


 橋のたもとでは動くとこの出来ない長老が心配げな表情で佇んでいた。

 日頃は猫たちも近くで寛いでいるが、今は少しでも泉の近く
へと行ってしまい一匹の姿も見えない。長老の気持ちを静めるように、枝にはたくさんの鳥たちが羽を休めていた。

 チップに、ピースを現世に帰す作戦を授けてから、ずっと泉を見つめたままだ。

 作戦といえるほどの作戦でもなかった。ピースを咥えて泉に潜る事を指示しただけだ。それだけに心配もひとしおだった。

 チップならやれる勇気と行動力があると強く信じていた。それでも不安は拭い去れなかった。
 

 一瞬、泉の方が明るく輝いたような気がした。

 何があったのか鳥たちに様子を見てくるように頼んだ。

 しばらくすると、遠くから鳥たちの羽音が近付いてきた。後ろから追いかけるように七色に輝く光の球がやってくる。今まで見たこともない輝きだ。目にしただけで心が洗われるような神々しい輝きだった。

「大成功。長老、チップがやった」

「虹になってやってくるよ」

 小鳥たちが飛びながら長老に向い声高に叫んでくる。

「そうか、そうか。チップが。ついに」

 長老は大きく枝を広げ嬉しそうに飛んできた鳥たちを迎えた。

 真っ直ぐ近付いてきた光の球は長老の上空でゆっくり旋回を始めた。

 辺りは落ちてきた光のシャワーで明るく輝き、昼間のようになってきた。大きく張った枝にも光の粒が降り積もっていく。

 巨大なクリスマスツリーが点灯したようだ。とまっていた小鳥たちも嬉しそうに一緒に飛び始めた。

 別れのダンスを小鳥達としていた光の球は、長老の前に下りて来ると動きを止めた。

 最後の別れを告げるように静かに佇んでいる。

 長老のたもとには光の球から落ちる光のシャワーが溢れた。
ピースの流す別れの涙のようだった。七色の光の粒が降り積もっていく。

 光の球は気持ちの整理がついたのか、ヤマネコに咥えられてやって来た橋をゆっくりと戻り始めた。来た時とは反対に自分
自身の力で。

「しっかり生きるのじゃぞ」

 長老は光の球に向かい叫んでいた。

 丘陵へやって来た猫たちは決して戻る事の出来ない、現世から続く橋。

 その時、泉の周りにいた猫たちが駆け下りてくるのが見えた。ピースと最後の別れをしに来ているのだ。
ただ、チップを心配するチャーミーやライカたちの姿はなかった。

「ピース、元気でね」

「もう一度会うまで待ってるぞ」

「俺の事忘れるな」

 それぞれに思い思いの言葉を叫びながら近付いてくる。

 猫たちの声に気付いたのか光の球も橋の上で一度立ち止まり、振り向いたように見えた。そして丘陵の猫たちへの思いを断ち切るように橋の向こうへと消えていった。

 光の球が通った橋は落としていった光の粒で輝いている。

 集まった猫たちは言葉も忘れたように立ち尽くし、見とれていた。

 それは七色に輝く虹の橋のようだった。


つづく


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

いかがでしたか、今回のお話。

 ついに、ついにピースが虹になって帰って行きました。
 
 物語の山場でもあり、少し長めでしたがいかがでしたか。

 虹の描写をとにかく綺麗に書きたいと思っていたのですが、いかがでししょう。

 皆さんの脳裏に虹が浮かんだでしょうか。

 虹になって帰っていくピースが見えましたか。


 前回の心&美々さんの泉の底に何かあるというコメントをヒントに少し書き足してみました。いかがだったでしょう。

 ここまで来るのに約九ヶ月掛かりました。

 虹の橋もやっと登場できました。

 ピースもどうにか現世に帰すことができました。

 でも、まだ物語りは終わっていませんよ。

 チップは泉の底に沈んだままです。

 どなたか救助隊を結成して下さい。 

 次回もお楽しみに。



 さて、僕達に一足早いクリスマスプレゼントが届きました。
 我が家です。
 二人で暮らすにはギュウギュウ詰めですが、冬は暖かくて良いですよ。
 いかがです。

  


 今日は午後から主が戯曲講座に初参加します。
 どんな内容なのでしょうね。
 次週御報告できると思います。

 By ホワイト
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