虹になるまで 著:主のゲン
「出迎え」
一
どこまでも続くなだらかな丘陵には、朝の日差しが咲き誇る色とりどりの花に降り注いでいた。春のような穏やかな気候の中、甘い香りを乗せた風が緩やかに通り過ぎていく。
花の蜜を求めやってくる蝶と一匹の猫がたわむれていた。
ソックスを履いたような前足にジャケットを着たように胸のところだけが白い、キジトラの十歳ほどのオス猫だ。ジャンプしては蝶に向かって手を伸ばし、スルリとかわされている。蝶の方もそうして猫との触れ合いを楽しんでいるかのようだった。
彼はここへ来てまだ日が浅く、友達も少なかった。そんな寂しさを蝶とたわむれる事でまぎらわしていたのだ。
「おはようチップ。今朝もひとりかい」
蝶はひらひらと舞いながらチップにあいさつをしている。蝶の羽根は朝日に照らされ輝いていた。
「おはよう、蝶々さん。みんなお寝坊だよね」
花の間から飛び上がって、あいさつを返している。
そこへ、朝日を背に丘陵の端の方から、咲き誇る花を掻き分けて一直線に進んでくる何者かがいた。花に埋もれていて姿を確認することは出来ない。
チップの方も蝶に夢中で近付いてくる怪しい陰に気付いていなかった。
蝶をめがけてジャンプし、着地したとき突然目の前に淡いクリーム色の縞模様の猫が姿を現した。
「おはよう、チップ」
チップよりは一回り年上の雌猫チャーミーだった。
「あー、ビックリした。もう、朝から脅かさないでよ。チャーミーったら意地悪なんだから」
突然目の前に猫が現れてビックリしたチップは、はじかれるように横へ飛びのいていた。逃げ出す格好で振り向くとチャーミーがいたのだ。
彼女とはここへ同じ頃にやってきた。一番初めに口をきいたのもチャーミーだった。以来、仲良く遊んでいる数少ない友達だ。彼女は現世では二十二年以上も長生きした御長寿猫で、近所の猫たちのボス的存在だったらしい。年下で臆病者のチップをチャーミーがリードしているようにも見える。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない。男の子でしょう、もっとしっかりしなよ。それよりもさ、橋を渡ってくる猫さんがいるみたいだよ。お迎えに行かない」
チップの驚き様に呆れながらチャーミーが言っていた。
「分った、一緒に行くよ。蝶々さん、また遊ぼうね」
先ほどまで戯れていた蝶に挨拶をし、揃って駆け出した。
「いってらっしゃい。また、遊ぼうな」
チップの後ろ姿に蝶も声を掛け微笑んで見送った。
ここは、亡くなった猫たちが天国に上る前に、現世への思いを癒す為に立ち寄る場所。
花と緑におおわれたなだらかな丘陵は遙か彼方まで続き、ゆっくりと過ぎる時間が猫たちを寛がせていた。木も花も生き物たちすべてが現世での寿命を全うしたものばかりであった。それぞれの生き物が、それぞれの思いを胸に秘め過ごしている。現世への未練が無くなった猫は天国へ上って行く。幸せな生涯を送った猫たちも、天国に上る前に、もう一度だけお世話になった飼い主に会いたいと三途の川を渡って来る日を待っている。
飼い主と巡りあうことが出来た猫たちは駆け寄っていき、体をこすり付け、足元で寝転び、のどをゴロゴロと鳴らし喜びを表す。飼い主の表情は驚きと喜びに満ち溢れ、愛おしい猫を抱きしめるのであった。目からは止めど無く涙があふれ、再び出会うことが出来た喜びで満たされていく。こぼれた涙の一粒一粒が地面に落ちると花となり足元に広がっていった。再会を果たした猫たちは現世への未練から開放され、飼い主の胸に抱かれたまま一緒に天国へ上っていくのだ。大地は涙の粒で咲いた花により覆い尽くされていた。
しかし、現世では幸せな生涯を過ごした猫たちばかりではない。
色々な境遇を過ごした猫たちがここへはやってくる。交通事故に遭い亡くなったもの。虐待されたもの。病気で苦しんでいたもの。そんな彼らは現世への未練が癒されず長い間とどまるものもいた。
中には人間に憎しみを抱いたまま亡くなったものもいる。
そんな不幸な猫たちの傷ついていた体も、重い病に苦しんだ体もここでは元気な姿に戻り、心が癒されるまで留まることができるのだ。咲き誇る花が、太陽のぬくもりがそして仲間たちが癒してくれる。身も心も、現世への未練がなくなると 天国へと導かれるのであった。
ただひとつだけ違うこと。
それは、歳をとらないことだけだった。
亡くなった時の年齢のまま時間だけがゆっくり過ぎていった。
つづく
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さて、いよいよ始まりました「虹になるまで」いかがでしたか。
主演のチップ君です。上手く描写出来ていましたか。
ゲンさんは作家さんサイトで、物語の書き出しはその本の価値を決めるもっとも重要な部分と教わっています。
書店に置いてある本を手にとり、書き出しを数行読んでみてそれが全く意味不明の事が書いてあればどうでしょう。また、自分に理解できない世界が描かれていればどうでしょう。みなさんその本を買って読もうと思いますか、それともそのまま書棚に戻しますか。
結果はお分かりの通りです。
ゲンさんは今回の作品も書き出しの今日のページは何十回となく読み返し、推敲してきました。でも、素人の物書きです。文学とは縁のないところで仕事をしています。物語を書き始めてやっと一年に経ったばかりです。どうにか今回形になりつつある程度です。まだ、作文程度かもしれません。
そこで、読んだ皆様の率直な感想が聞きたいようです。
良かった。悪かった。イメージが伝わらない。なんでも良いのです。
閲覧数と同じだけコメントが頂けると嬉しいなと言っております。
それが、今後の作品をより良いものにする糧になるはずです。
お友達申請していないからと遠慮しないで下さい。
ネコジルシはみんながお友達です。
宜しくお願いします。
byホワイト
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