二
長老のもとでひと時を過ごした後、母猫は仔猫を咥え立ち上がった。
「そろそろ一本松に戻ります。あそこの方が静かで仔猫には良いでしょう」
「じゃあ、ぼくが付いて行くよ」
チップがすぐに立ち上がった。
「今度は走らなくていいから私も付いて行こうかな」
「チャーミーも来てくれるの。ありがとう」
チップの声が嬉しそうに弾んでいる。
母猫に近づくチャーミーの後ろの方で、ライカが何も言わず微笑んでいた。長老も小鳥も高い所から微笑んで見ていた。近くにいた猫たちも微笑んでいる。大地に咲く色とりどりの花たちも嬉しそうに風に揺れていた。
橋のたもとには、咲き誇る花の香りと微笑みが満ち溢れるのであった。
仔猫を咥え、ゆっくり歩き始めた母猫の横をチップとチャーミーが連れ添っている。
「仔猫は僕の背中に乗せていいよ」
チップが仔猫を咥えたままの母猫に言葉を掛けていた。
「じゃあ、頼むわね」
仔猫は母猫の母乳を飲んで元気を取り戻したようにも見えたが、未だ目も開けず、鳴き声も立てなかった。お乳を飲んだ後はただすやすやと眠っている。
母猫は仔猫をチップの背中に乗せ、ずり落ちないように横に付いて歩いた。仔猫も無意識に爪を出して落ちないようにしがみついている。
「チャーミーっていうのですか。すまないわね、一緒に来てもらって」
母猫が歩きながら、チップを挟んで反対側にいるチャーミーに話し掛けていた。チャーミーも仔猫がチップの背から落ちないように寄り添って歩いていた。
「宜しく。だって仔猫って可愛いんだもの。モコモコでさ。気になってしょうがないでしょう」
にっこり微笑んで母猫を見るチャーミーだった。
「あなた方は現世から一緒にいるのですか。とっても仲が良いようですが」
母猫が微笑みながらチャーミーを見ている。
「違うよ、ここへ来て初めて会ったのさ。それからいつも一緒かな。チャーミーが付いてまわるんだ」
「なに、その言い方。まるで私がチップを追い掛け回しているみたいじゃない」
チャーミーが口を尖らせて、真ん中を行くチップを睨んだ。
「まあまあ、そう言わずに。チップも嬉しいのですよ。チャーミーのような素敵な猫さんが一緒にいてくれる事が。ちょっと照れくさいだけですよ」
母猫はチャーミーの気持ちをなだめていた。チップは図星なのか黙ったまま振り向きもしない。ただ、団子のように丸まったシッポだけは緊張したようにピクリと動いた。
三匹はゆっくり、ゆっくり一本松を目指し丘陵を並んで歩いている。
途中で、母猫と仔猫を気づかって休む事にした。
「あんなに嫌がっていたのに、どうして来てくれたの」
座って休む母猫の横にチップはそっと近づいた。
「チップ。お前は優しい子に育ったのだね。どこの猫かも分からない子のために一生懸命になって。それに朝一緒に来たのはライカと言ったね、彼の言葉に私は目が覚めました。思い違いをしていたのです。いつまでもわが子のために母乳を与える日を待ち続けているなんて。もう大人になっていますよね。私もここへ来てどれくらいになったでしょう。待っていても仔猫のままではないはずです。現世では誰か知らない者に世話になったはずです。それを気付かないなんて。ライカの言う通りですよ。いいえ、本当は全て気付いていたのです、ただ受け入れることができなかったのです。心に余裕がなかったのでしょう。離れ離れになった仔猫のことだけしか考えられなかったのです。私はバカですね」
遠くを見つめて話す母猫の目に光るものが見えた。子育てを終える前に亡くなったのだろうか。我が子との別れを受け入れきれずにいたのかもしれない。母親としての喜びを、幸せを、十分に感じることなくここへ来たのかもしれない。それが現世への未練となり、かたくなに心を閉ざしていたのだろう。
「この仔猫は神様が授けてくださったあなたの子供ですよ。あなたを頼りにしています。さっきもあんなにお乳を飲んでいたではないですか」
チップは母猫のそばに座り直した。
「どこまでも優しいのだね」
仔猫を抱いている母猫の横で、ずっと一緒にいる家族のように暖かく見守るチップの姿があった。
「あなたのお名前は何と言うのですか」
チップは母猫に尋ねてみた。
「私は野良猫ですよ。名前なんてありません。おばさんとでも言ってくださいな。気遣ってもらえるだけで嬉しいですから」
満ち足りた表情で話すおばさんにチャーミーが近づいてきた。
「それじゃ、おばさん。あと少しだよ、頑張ろう」
うなずいておばさんとチップは立ち上がった。
一本松までもう少しだ。仔猫を背に、三匹はゆっくりと歩き始めるのであった。
つづく
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
いかがでしたか、今回のお話。
前回は仔猫の名前を皆さんに募集しましたところ、色々なお名前を考えて頂きありがとうございました。
そこで、疑問が生じたので皆さんにまたご質問です。
仔猫の性別は何ヶ月位で分かるものですか。
目も開かない仔猫でも鳴き声や仕草で性別の区別がつくものでしょうか。僕が保護してもらったのはもう二月になるくらいだったので、乳飲み子の様子を我が家の主は見た事ありません。想像で描いています。
だから、違和感が大いにあると思います。そんな違和感を解消し、より現実味のあるものに仕上げる為、皆様の貴重な経験を教えてください。
今回のお話の中で一番気になるのは、母猫がどのようにして仔猫を運ぶかということです。
仔猫の世話をしたことないので勝手な想像で描いているみたいです。丘陵の上にある一本松まで連れて行くのに咥えていくのは無理があるかなと背中に乗せて運んでいます。本来ならどうやって運ぶでしょうね。ファンタジーでは木がしゃべったり歩いたりします。鳥の上に乗ることもあります。仔猫を背中に乗せることぐらい良いかなとも思うのですが、皆さんならどうやって連れて行きますか。
それと、読みにくいとの御指摘があった改行を今回は試しに一まとまりごとに空けてあります。
どうでしょう、見やすいですか。ちょっと間延びしたようではないでしょうか。
皆さんの反応を参考に次回からの表記に反映します。ご感想をお願いします。
そして、次回はいよいよ仔猫に名前を付けます。
まだ、間に合いますよ。良い名前を思いついたらコメントに書いてください。
僕達は天気が良い日はこうして窓辺で寝ています。
でも、どうしてバンザイをするのでしょうか。
皆さんもこんな格好していますか。
では、また。
最近のコメント