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平成17年夏に猫を保護してより飼育中の初心者です。

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日記連載創作猫物語、「虹になるまで」 第三話 その一
2009年6月6日(土) 420 / 18

          「泉」

           一

 チップたちが長老のもとを去りかけたとき、泉の方から慌てて駆けてくる猫がいた。

「長老、泉の様子がおかしいの」

 橋のたもとへ着くなり、長老を見上げているのはキジトラのメス猫チョコだ。ここにはもう長くいるらしい。よほど慌てて来たのか、口を開けて息をしている。

「どうしたというのじゃ。そんなに慌てて」

「水が減っているの、泉の水が」

 チョコは肩を上下していた。

「なんじゃと。今なんと言った。泉の水が減っていると言わなかったか」

「そうなの、昨日より減っているように感じるの。私も長いことここにいるけどこんな事初めてよ。どうなっているの」

 帰りかけていたチップとチャーミーが慌てた様子が気になり戻ってきた。

「それはいかん」

 二匹が戻ってきたことも気付かず長老は目を閉じ黙り込んでしまった。

「どうしたの」

 チップは不安げに佇むチョコに近づいていた。

「泉の水が減っているような気がしたの。それで長老に聞きに来たのだけど……」

「当たり前でしょう。水だってみんなが飲めば少しは減るに決まっているわよ」

 呑気なことをいているのはチャーミーだ。

「いいえ、こんな事今まで無かったわ。いくらみんなで飲んでも減ることも無ければ溢れることも」

 チャーミーを見るチョコの目が心配そうに揺れている。

「そうじゃ。簡単な問題ではないぞ。大変な事が起きているのかも知れん」

 今まで目を閉じ黙り込んでいた長老が、遠くを睨むように目を見開いていた。さっきまでの穏やかな表情とは一変している。眉間にしわを寄せた表情は、チャーミーの冗談も寄せ付けないような険しいものであった。

「良いか。このことはまだ、みんなには話してはならぬぞ、騒ぎになってはいかん。もう少し様子を見て、減り続けるようであれば早急に対応せねば」

「どうしてそんなに大変なの」

 ここへ来て日が浅いチップには事の重大さが分っていなかった。

「ここにいる猫たちはみんな、泉の水を飲んで生活しているよ。泉の水さえ飲んでいれば食べなくても大丈夫なこと知っているでしょう。だから餌を確保するためのテリトリー争いも喧嘩も起こらないわ。怪我をしても泉の水を付ければすぐに治るの。現世で傷ついていた体も、病気で苦しんでいた体も、元気な元の姿に戻れるのもみんな泉のお陰なのよ。泉の水が空中を漂い、隅々まで行き渡っているの。川も無く雨も降らないのに木や花が咲き誇ることができるのも泉のお陰よ。泉の水が大地を潤し、森に活力を与えているの。この丘陵で暮らす生き物の命の源なのよ。そんな泉のことをみんなは、神秘の泉と呼んでいるわ。その泉が枯れるとどうなると思う」

 チョコは真っ直ぐにチップを見ていた。

「分らない。どうなるの」

「水がなくなったら木も花も枯れ、荒れ野原になるわ。虫も鳥
もいなくなるでしょう。砂漠の様な場所で猫たちは現世のようにテリトリー争いをし、喧嘩が絶えなくなるわ」

 チップは目を大きく開け驚愕の表情で話を聞いていた。

 呑気な事を言っていたチャーミーも、顔色を変えチップの横で足を揃え座って話を聞いている。

「良いか。今、みんなに知らせると大変な騒ぎになる。水が減っているようじゃったら、今夜の集会の時、レオを連れて来てくれぬか。彼は知恵者じゃ。何か知っているかも知れぬ。一緒に泉を見て来てくれ」

 険しい表情のままで長老が三匹に頼むのであった。


 三匹は長老の指示に従い、不安な気持ちのまま丘陵の中腹ほどにある泉へやってきていた。花が咲き誇る丘陵から少し森の方へ入ったところに泉はある。

 周囲は三、四百メートルもあろうか。泉からは丘陵にある広場へと道が続いている。

 泉の淵は猫たちが水を呑みやすいように階段状に石が重なり水面へと下っていた。どんなに多くの水が湧き出ても決して溢れたこともなく、また、減ることもない不思議な泉だ。周りを大きな木に囲まれた泉は、すでに陽も落ち、水面も見えなくなっていた。

 日中でもうっそうと茂った樹木で陰っている。時々、葉の間を縫うようにして、光のカーテンを引いたように日が差し込むことがある。日の光が届いた水面はきらきらと輝くのであった。

 真っ暗な夜でも、人間の流す涙が泉の底から湧き出る時は七色の光が輝いて見える。

 透き通った水を通して水面にまで輝きが届く。人間たちが流す涙の種類により七色に変わるといわれている。亡くなった猫への愛情により青く、ときには赤く変化していくのだ。

 広場にいても七色に輝く光を見ることができる。

 本当は喜ぶべきことではないのだ。新しく亡くなった猫を偲び人間が涙を流したことになるからだ。ところが、今はひっそりと静まり返っているのだ。まるで、泉自体が眠っているかのようだった。

 肌で感じる泉の霊気もない。

 周りを囲む樹々にも生気がないように感じられた。

 三匹の表情が険しくなっていく。

「どうなっているのだろう」

 チップは水面を見つめながら心配そうにつぶやいた。

「確かに減っているよね」

 チャーミーも心配している。

「とにかく、レオを探して長老のところへ戻ろう」

 チップの言葉にうなずく二匹だった。


つづく


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※  

いかがでしたか、今回のお話。

 新しい登場猫さんがいましたね。

 Yashikoさんちのチョコちゃんです。

 泉の水が減っているって教えに来てくれました。

 どうしてこんなことになってしまったのでしょう。

 それにピースとヤマネコがどのように関わってくるのか、気になりませんか。次第に明らかになっていきます。

 さて、次回はOKさん!ちのレオ君、登場しますよ。

 御期待下さい。


 次回もお楽しみに。


『キター顔♪』

 あまりにも楽しそうなので、うちも出しました。

 届くでしょうか。お楽しみに。

      


では、また。
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