ただ、時間だけが過ぎていた。
いつもなら顔を出す月も今は見えない。
輝く星の姿もなかった。
泉の様子が乗り移ったように、丘陵全体がひっそりと静まり返っていた。
「待って、一匹だけいるよ。橋の向こうで関わりのあった猫が」
チップが目を輝かせてみんなを見回した。いっせいに注目が集まる。
「ピースは連れてこられたんだよね」
チップが真っ直ぐにチャーミーを見ている。
「分かった。イリオモテヤマネコね」
チャーミーも気付いた。瞳が輝いている。
「そうよ。ヤマネコさんが仔猫を連れてきていたはずよ。橋の向こうで関わりがあることになるわよね」
今度はチョコが言っている。長老も気付いたようだ。
「確かに橋の向こうで唯一関わりがあることになる。ヤマネコになら見えるかもしれぬ。しかし、素直に我々の言う事を聞いて見返りの岩に来てくれるじゃろうか。どうやってヤマネコの心を開かせるのだ。良い方法があればよいが」
ところが再び頭を抱えてしまった。大きく張った枝の葉がうなだれたように見えた。
「とにかく、探しに行こうよ。話せば分ってくれるかもしれない」
チップがみんなを勇気付け立ち上がった。
「でも、どこにいるか分からないのでしょう」
チャーミーがどうしようもないと言いたげに頭を横に振っている。
「それは大丈夫じゃ。小鳥たちに聞けば居場所ぐらいすぐに分かる。それよりも誰が行く」
長老が心配そうな表情で見下ろしていた。
「ぼくが行くよ。チャーミーも行くでしょう」
即座にチップが前に出た。
「私もご一緒させて頂いて宜しいでしょうか。多少歳はとっておりますがその分知恵が働きますので、お役に立つかと」
レオも前に進み出た。
「よし、決まり。レオさんとチャーミー、それにぼくの三匹で行こう。どうだろう、長老」
チャーミーの意思も確認せずにチップが独りで決めていた。もちろんチャーミーもそのつもりで立ち上がっていた。
「そこまで言うのであれば。みなで協力すれば何とかなるかもしれぬ」
チップたちの強い意志を感じた長老も覚悟を決めた。
「よし、頼んだぞチップ。ただ、今からでは遅いであろう。明日の朝、出発するのじゃ。それにレオ、そなたの知恵を貸してやってくれ。チャーミー、無理せんようにな。早とちりのチップをフォローしてやっておくれ」
長老は三匹を見ながら大きくうなずいて枝を揺らした。
つづく
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
いかがでしたか、今回のお話。
ピースの現世での様子を見るためにヤマネコを探さなければならなくなりました。
次回からはヤマネコを探して森に行きます。
すぐに会えるでしょうか。
いえいえ、まだ心を開いていません。そこに待ち受けているのは……。
御期待下さい。
前回は少し長めの文章になりました。皆さんお疲れではありませんか。
そこで今回は短めにしてみました。ちょっと一休みといったところでしょうか。
すでに掲載を始めて三ヶ月が経っております。ちなみに、ここまでトータルで原稿用紙75枚です。結構な枚数になっております。
短く感じましたか。
もう三分の一。でも、まだ三分の一です。挫けずに最後まで付いてきて下さいね。
次回もお楽しみに。
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梅雨とは思えない晴天で窓辺で寛いでいます。
では、また。
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