山道を下っていると、朝来るときはヤマネコを探すのに必死で気付かなかったが、森が開けた見晴らしの良いところがあった。
切り立った崖が森の樹々を開いて、丘陵が一望できた。
「ほう、これは素晴らしい眺めですね。森の中にこんな場所があったなんて知りませんでした。長老がいる橋のたもとまで見えますよ」
レオが見渡しながら言っている。ところがその表情は言葉とは裏腹に曇ったままだ。
「わー綺麗。ヤマネコもここからきっと見ていたのだわ」
チャーミーは感嘆の声を上げている。疲れ切ったチップは横になり休んでいた。肩でする呼吸が苦しそうだ。首筋からの出血が体を汚している。
「綺麗とばかり喜んでもいられないようですよ」
レオは丘陵を囲む山の稜線を見ながらチャーミーに言っている。
「泉から離れて行けば行くほど緑が少なくなっているのが分りますか。山の上の方から茶色く枯れてきています。泉の水の力が弱まっている証です。これは隠しておいてもいずれみんなが気付くでしょう。帰ってから直ぐに長老とも相談せねばなりませんね。我々が考えている以上に進行が早いようです。急ぎましょう」
緑豊かな丘陵が茶色く変色していることを目の当たりにしたレオの表情が険しかった。
ようやく三匹が泉に戻った時はすでにお昼を過ぎていた。
傷だらけのチップもチャーミーに寄り添うようにして何とか帰り着くことが出来た。
チップは顔を突っ込みむさぼるように泉の水を飲んだ。
「あー、美味しい」
気持ちも切れかけていたチップが久しぶりに言葉を口にした。乾ききった大地に雨が吸い込まれるように、体の隅々に泉の水がいきわたるのが分かった。血がこびりついていたあごから首と胸にかけても綺麗に泉の水で流した。
「本当ですね。美味しい、いつまでもこの水が枯れなければいいのですが」
レオが水面を見つめている。
「やっと声が出せたね。チップが喋れない間は静かだったよ。いないのかと思っていた」
泉の水を飲んだチャーミーもいつもの元気を取り戻している。泉の水は減ってはいても、水そのものの力は変わらないようだ。みるみるみんなが元気になっていく。
「レオさん。これからどうします」
ヤマネコに殴られた傷も癒えたチップが水から顔を上げ聞いていた。
「ヤマネコは、まだ我々に対する警戒心を解いていないようです。明るいうちは行動しないでしょう。もしものためにチップは泉を見張っていてくれませんか。ヤマネコも傷ついた体に戻り始めているはずです。人目を忍んで泉にやってくるでしょう。チャーミーは母猫と交代してピースの様子を見ていて下さい。母猫にも泉の水を飲ませないとお乳が出なくなるかも知れませんから。それと、子猫を絶対泉には近づけないように。泉が仔猫の鼓動を感じたら水が完全に湧き出なくなるかも知れません。もしそうなったら泉の水が干上がるのにさほど時間はかからないでしょう」
「大変。すぐにおばさんのところに行くわ」
チャーミーが直ぐに立ち上がった。
「僕は、さすがに早朝から歩き続けて疲れたよ」
チップは乾いた場所を選び横になっていた。
「では、私は長老の所へ行ってヤマネコのことを報告してきます。今後の対策もしないといけませんから」
そう言うと、レオも立ち上がった。
「夜にまた降りてくるわね」
チャーミーはそう言い残し、小鳥たちと共に一本松に向かって行った。
薄暗い泉のほとりには横になって休むチップのみが残されていた。
チップはどうすればヤマネコと話が出来るかを考えていた。
体は休めていても、頭の中はそのことで一杯だった。
つづく
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いかがでしたか、今回のお話。
どうにか泉にまで戻ってきた三匹。
さて、この状況をどうやって打開するのでしょうか。
気になるヤマネコとの再会は。
また、次回をお楽しみに。
さて、主は最近の閲覧数の伸びを気にしております。
内容がマンネリ化してきたのでしょうか。閲覧数の伸びに勢いがないように感じております。お話がつまらなくなっているのでしょうか。皆さんどう思います。

主役のチップもお疲れ気味か最近ゴロゴロしてばかりいます。
では、また。
Byホワイト
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