一
チップは泉の近くでヤマネコがやって来ないか見張っていた。
早朝から森に入ったお陰で体は疲れ切っている。
そこには暖かな午後の日差しも差し込んでいない。
さまざまな猫たちがやってきては泉の水を飲んで行く。いつもより明らかに多かった。どの猫の表情にも疲れがにじんでいる。動きがぎこちないもの、片足を引きずっているもの。今までに見られなかった姿だ。朝より泉の水はさらに少なくなっている。それでも猫たちは必死に水を飲んでいた。傷ついた体が回復すると去っていく猫。そのままゆっくり泉のほとりで寛ぐ猫。
夕暮れの闇が丘陵を覆い始めた頃には、泉を訪れる猫たちも少なくなっていた。
チップは広場の方からは見えない、森に近い場所で静かに泉に浸かっていた。
頭の先まで前身をすっかり濡らしている。
普通、猫は水を嫌い水の中へ飛び込むことなどしない。犬と違い体毛が水をはじかないからだ。濡れた体はグルーミングして整えなければならない。猫にとっては大変な体力を使う事になるのだ。
それが自ら水の中にどっぷりと浸かっている。周りにいる者が不思議がるのも当然だった。
「どうしたの、チップ」
早朝に森の中へ一緒に行った小鳥がチップの奇行に驚いていた。
「静かに、気付かれちゃうよ。お願いがあるんだ。このまま待っていてもヤマネコは来ないと思うんだ。いや、森の奥深くにいるヤマネコは現世での怪我が再発し動けないでいるのかも知れない。僕が水を運べればいいのだけれど、それができないから、全身を濡らして少しでも泉の水を含んでいこうと思うんだ。日も翳り始めているから乾くのも遅いだろう。もう少し奥のほうまで行けばヤマネコに会えるかも知れない。道案内をしてくれないか。なんとか泉まで連れて来たいんだ」
チップは水から顔を出し小鳥に頼んでいる。濡れた顔に毛がへばりつき一回り小さく見え、目だけが大きくなったようにしていた。
「私たちは暗くなると良く目が見えないのだよね」
小鳥が困った顔をしている。すると泉の周りにいたホタルたちが集まってきた。
「僕らが一緒に行ってあげるよ。日が落ちると森の中は真っ暗だよ。少しぐらいは明るくしてあげられると思うけど」
チップがいる所は泉の奥の森に一番近いところだ。うっそうと茂った樹々に囲まれすでに暗くなっている。
集まったホタルは数百匹はいるだろうか、光の粒が乱舞している。これだけ集まると足元を照らす位には明るい。
「ありがとう、ホタルさん。出来たらすぐに行きたいんだけど」
チップは泉から出て来て礼を言った。それはいつもの元気なチップだった。しかし、見かけは雨に濡れた惨めな野良猫そのものであった。
暗くなるのを心配していた小鳥もホタルの言葉に勇気付けられた。
「じゃあ、頼むよ」
小鳥が元気にチップの上で旋回して飛んでいる。
「よし、出発だ」
びしょ濡れのチップの号令で、数百匹のホタルを先頭に案内役の小鳥と共に再び森の中へと消えて入っていった。
後には、一段と推移が下がった泉が暗く静まり返っているだけだった。
つづく
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
いかがでしたか、今回のお話。
ついにチップが単独行動に出ました。
無鉄砲な彼らしい行動です。
さて、吉と出るか凶と出るか。
それは次回のお楽しみに。
Byホワイト
先日、我が人生の師であります方の容態が悪いと連絡を受け、沖縄に日帰りでお見舞いに行ってきました。
さすがに、厚かったです。
あまり芳しい経過ではないようでしたが、意識がはっきりしているうちにお目にかかれて良かったです。
これが今生のお別れになるかも知れないと思うと、後ろ髪を引かれる思いで帰ってきました。
病院のすぐ近くにあった、沖縄県博物館・美術館まで時間つぶしに寄ってきました。
そこで、良いものと巡り会いました。
画像はこれです。

撮影の許可をもらい写してきました。
もう少しアップで。

イリオモテヤマネコの剥製です。
考えていたよりも小柄で、顔も小ぶりなように見えました。
毛並みはもっとはっきりした縞模様かと思っていたのですが、資料で調べたものとはやはり実物は少し違うように見えました。
物語中で描写しているヤマネコのイメージといかがでしょうか。
沖縄本島でも貴重な生き物達がどんどん少なくなってきているとのことでした。原因の一つに人間による開発があるそうです。
ところが昔のままの姿を残しているところもあるそうです。
それは米軍の練習域になり、一般人が立ち入ることが出来ないところです。
なんとも皮肉な結果になっています。
そして、珍しいものが国際観光通りにいました。

ヤシガニです。
ちょっとグロテスクな感じでした。
初めて見ました。
短い滞在時間でしたが、訪れてみて初めて分かるものが色々ありますね。
暑さの体感や太陽の輝き、匂い。
良い体験が出来ました。
何かと忙しい一週間でした。
主のゲン
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