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平成17年夏に猫を保護してより飼育中の初心者です。

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日記連載創作猫物語、「虹になるまで」 第五話 その二
2009年8月22日(土) 446 / 10

             二

 すでに森の中は真っ暗闇だった。

 それでも、チップたちが歩いているところだけはホタルの光でほんのりと明るく照らされている。森の中を人魂が飛んでいるように、薄明かりの塊がふわふわと奥へ奥へと進んでいく。

 一回も休憩を取ることなく先を急いでいた。昼間に丘陵を見下ろした場所もすでに過ぎている。

「そろそろ、朝来た場所に着くよ。チップ、大丈夫」

 出発して一時間ほど経ったであろうか、前を飛ぶ小鳥がチップの様子を気にしている。

「ああ、あさおり、らいじょうぶ」

 答えるチップのろれつが回らなくなっている。それでも全く喋れなかった朝よりはましだ。時々体に付いた泉の水を舐めていたのが症状を軽くしているのだろう。

「朝来たのはここら辺だよ。ちょっと休憩しないかい」

 小鳥が少し高い所の小枝に止まり、まわりの様子を確認していた。

 森の中は真っ暗で何も見えない。ホタルが集まっているところだけがぼんやりと照らされていた。

「僕が近くを探して来るから、チップはここにいてよ。ホタルさん付いてきて」

 小鳥はホタルを引き連れて森の奥へとゆっくり飛んで行った。

 チップの周りには数匹のホタルが残っているだけだった。

 静まり返った森には凛とした緊張感があった。聞こえるのは、森の中を通り抜ける緩やかな風にかすかに揺れる樹々の葉の音だけだった。虫の声も聞こえない。動物達の気配が全く感じられない。森自体が深い眠りについているようだった。
目を瞑れば昨日からの事が思い出される。

 ピースがやってきてから丘陵に突然異変が始まった。不安な事ばかりが心の中に浮かんでは消える。ピースに何も罪はない。ヤマネコが悪いわけでもない。ちょっとした行き違いがあっただけだ。だからそこを元に戻せば全て上手くいくはずなのだ。

 それが難しいことはみんなが知っている。それでも何とかしてあげたい。みんなの思いは同じだった。急がなければいけないことも分かっている。

 ホタルがいなければ暗闇に押しつぶされそうだった。こんな深い山の中で一人になったことなどない。現世では暖かい家庭で半生を過ごした。野良猫だった時代でさえ、同じ野良猫や人間達の気配を感じながら生きてきた。心細そうにしているのを心配しているのか数匹のホタルがチップの横に降りてきて照らしてくれる。

 無事に泉に戻れるだろうかと不安になりだしたころ小鳥たちが慌てた様子で戻ってきた。

「大変だ。五百メートルほど行ったところにヤマネコが倒れている。近付いて声を掛けたけど身動き一つしない」

 それを聞いて、今まで横になって休んでいたチップが慌てて立ち上がった。もう声が出せないくらいに口がただれ始めていた。大きくうなずくと何も言わず、森の奥を目指して駆け出した。
 

 チップは草や土の匂いとの違いを敏感な鼻で感じていた。血の匂いが段々強くなってくる。

 しばらく進むと、真っ暗な森の中、樹々の下草に埋もれるようにしてヤマネコが倒れていた。血の臭いがしなければ真っ暗闇では気付かないところだ。

「大丈夫か」

 小鳥がホタルと共にそばに下りて声を掛けているが反応がない。

 チップも駆け寄っていた。

 ヤマネコの後ろ足からは血が流れ真っ赤に染まっていた。現世での怪我が再発して動けなくなったのだろう。意識も失っているようだ。

 ここは現世ではない。二度亡くなることはない。

 チップは無言のまま、まだ少し湿り気の残る自分の体を擦り付けていく。何度も何度も繰り返していた。

 チップの口からは血の混ざった唾液が流れ、のど元を赤く染めている。それでも最後の一滴までヤマネコにつけてあげるように擦り付けた。

 すると、先ほどまで身動き一つしなかったヤマネコの体が動いたように感じられた。足からの出血も止まっている。

「ヤマレコ、さん、いるみに、いこう」

 チップは真っ赤にただれた口で、途切れ途切れになりながらも必死に話しかけた。

「泉に行けば、怪我も良くなると思うよ。一緒に山を降りよう。チップは必死で、君を探しに来たんだ」

 小鳥がヤマネコの耳元で話しかけている。

 ヤマネコはまだ意識もはっきりしていないのかも知れない。それでも手足には力が蘇りつつあった。無意識に、手足を突っ張り、チップを寄せ付けようとしない。

 チップは無理やりヤマネコの下に体を入れると、自分より大きな体を背負って立ち上がった。ヤマネコはまた意識が遠のいていくのだろうか、突っ張っていた手足の力が抜けた。抗うだけの体力がないのかもしれない。だらりと垂れ下がっている。

「よし、下ろう。早くしないと。チップの体力にも限界があるよ。ホタルさん、良く足元を照らしてあげて」

 小鳥の声にホタルたちがチップの足元を照らすように飛び始めた。

 チップは坂道を滑らないように、一歩一歩慎重に歩を進める。下りといえどもヤマネコを背負っている、登りよりもゆっくりとしか進まなかった。

 途中、丘陵が一望できる場所も通ったがホタルの明かりでは何も見渡す事ができなかった。皆は無言で先を急いでいた。

 朝に続いて二度目の山登りということで、チップの体力も限界に達していた。

 細心の注意をしてきたつもりにも関わらず、泉までもう少しというところで、枯葉の積もる急な斜面で足を滑らせてしまった。

 不幸にも家猫として世話を受けていたチップの爪は短く切り揃えられていたことも災いした。必死に爪を立てても止まることが出来ず、大きな木の幹にヤマネコと共に激突した。弾かれたヤマネコは離れた場所に投げ出された。チップも大きな木の根元に倒れたままだった。立ち上がろうとするが力が入らない。

「チップ、チップ、大丈夫か」

 先頭を飛んでいた小鳥が慌てて戻って来た。 

 ホタルたちもチップの上で飛び回っている。

 チップはうめき声をあげながら立ち上がろうとした。

 しかし、小鳥の呼びかける声が段々と遠くに押しやられていく。

 チップは光も届かない、深い深い井戸の底に落ちていくように感じた。ぬめった壁に指先も引っかからず、底なしの井戸に落ちていくようだった。

 そして、ついに意識を失い動かなくなってしまった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 いかがでしたか、今回のお話。

 三週間ぶりの投稿と言うことで、皆様には大変お待たせいたしました。

 ご心配お掛けいたしましたが、主も元気になり帰って来ました。
 
 
 さて、物語の方ですが、第一回目から五ヶ月目に入り、随分と時間が経過しているように感じられるかも知れません。

 しかし、物語中の時間は、まだ、二日目です。

 ピースがヤマネコに連れてこられたのが最初の日。

 その日の夕方には、一本松へおばさんと一緒に行きました。

 ところが泉の水が減っていると気付いて、レオを連れて長老の下に集まったのがその日の夜の事。

 翌日は早朝から一本松に行き、ピースの鼓動を確認してヤマネコを森へ探しに行ったのです。

 ヤマネコを連れてくることが出来ずにお昼には泉に帰ってきました。

 そして、チップは夕方になり単独で森に入って入ったのです。

 ここまでが前回までの大まかなあらすじです。

 このお話は、出会いからの三日間が描かれる予定です。

 今はちょうど中盤。

 一応ファンタジーのつもりで書かれております。次回はそれらしい場面になると思いますよ。期待してください。



 そして、お盆休みの間にシャンプーをしました。

        


 綺麗になったでしょうか。

 チップは疲れ果て舌を出して寝ていました。

         


Byホワイト
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