ヤマネコとレオはすぐに見返り岩に向かった。
一方、チップは長老の元にやってきていた。
「やあ、チップ。色々と苦労かけてすまぬのう」
息を弾ませ駆け下りてきたチップを長老が労わっていた。
「大丈夫。ヤマネコさんも協力してくれると言って、今、レオと見返り岩に行ったから。ピースの現世での様子も分ると思うよ」
チップが長老を見上げて報告している。
「なに、とうとう泉にやってきたか」
驚いた長老は大きく張った枝を揺らしていた。
「森に行って連れて来たんだ」
チップが少し誇らしげにしている。
「なんと、一人で森の奥深くまで行ってきたのか。むちゃな事をするものじゃ、怪我などしなかったか」
長老は呆れてチップを見ている。頼もしくなったチップが一回り大きくなったように感じていた。
「大丈夫。それよりもとっても大事な話があるのだけれど」
「何があったのじゃ。遠慮はいらん、話してみよ」
「実は森の中で精霊の声を聞いたんだ」
チップは長老に森の中での出来事を詳しく話した。その夢を信じて良いものかどうか、長老の意見を聞きたいことを話した。
「精霊の話は信じて良いのではないじゃろうか。その証拠にチップ、お前は森の中での困難を克服しヤマネコを連れて帰っているではないか。いや、我々には、今はそれを信じるしかないのではなかろうか」
長老の言葉は自分自身に言い聞かせるようにも聞こえる。
「分かった。それじゃすぐに見返りの岩に行ってヤマネコさんにピースの様子を聞かなくちゃ」
チップは走り出そうとした。
「待て、チップ。お前の一番悪いところじゃ。深い思慮もなく、すぐに飛び出そうとする。それでは他の者の上に立つリーダーにはなれぬぞ。あらゆる方策を持って行動すれば他の者も付いて来るであろうが。そのようにそそっかしゅうてはな、見ていて危なっかしい」
困ったように顔をしかめる長老である。
「じゃあ、どうすれば良いのさ」
チップは立ち止まり、苛立ちを隠しもせず長老の指示を待った。
「どうやってピースに涙の粒を触れさせるかじゃ。お前には何か良き考えがあるのか」
「それは……」
チップにもこれといって妙案があるわけではなかった。
長老は静かに瞑想を始めた。
良い方法を思いつかないチップも黙り込んでしまった。
丘陵を通り過ぎる風もなく、二匹の間を重い沈黙が支配した。
しばらくして長老はかっと目を開き、チップを見下ろした。何事か方策を思いついたようだ。
チップはうなづきながら聞いている。
「分かった。レオさんに伝えるよ」
これが丘陵を救う唯一の作戦になるはずと、チップは核心するように見返り岩を目指し走り出した。
長老は頼もしくなったチップの後姿を、作戦が成功する事だけを祈り見つめるのであった。
つづく
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
いかがでしたか、今回のお話。
さあ、いよいよ次回から見返り岩にヤマネコが行きますよ。
現世での様子が分かるのももうじきです。
どのように過ごしてきたのでしょうね。
辛い過去があるかもしれません。
いよいよ、目が離せなくなります。
お楽しみに。
さて、先月「長崎ねこ」学会の猫川柳で見事第一位を獲得した主ですが、なんと、九月度も第一位に輝くことが出来ました。
http://www.nagasakineko.com/senryu/past.html
二連覇達成です。
お暇なら見てください。

Byホワイト
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