ヤマネコが住んでいたところは熱帯雨林気候に属する遠い南の島。
島のほとんどが自然林で覆われ、山の斜面・森林ともに海の間近にまで迫っていた。
海岸線はマングローブが生い茂り、本土では見かけない珍しい動植物が生存している。
平地の少ない島には昔から住んでいる者以外寄り付こうとしなかった。ヤマネコたちともお互いに干渉することなく共存できていた。
それが壊れたのは、リゾートブームに乗って本土の人間たちが来てからだ。
島は人間の手によって切り開かれ、道路が出来た。ヤマネコたちのテリトリーは分断され、車にはねられる事故が相次いだ。人間達は山に入り込み、ヤマネコは住む場所を追われた。
人間は自らの生活を守る為だけに、ねずみなどのヤマネコの餌になっていた生き物を駆除していった。ヤマネコたちは仕方なく食べ物を求め、山を降り、民家の近くに現われ事故にあった。そればかりではない、自ら山を切り開き入り込んできた人間はイノシシから身を守る為、罠まで仕掛けた。丈夫な罠だった。一度捕まるとどうにもならない。力尽き、朽ち果てるまで屍をさらすことになる。何の罪も無い仲間達が罠に掛かり命を落とした。
人間のもたらした悪業はまだある。ペットとして連れてきた家ネコが放置され、野良猫となりテリトリーに侵入してきたのだ。野良猫とは生きる上で餌の取り合いになる。また、野良猫と接触する仲間が出てきた。もともと島にいるヤマネコとは違う血筋の猫たちだ。野良猫が持ってきた伝染病が蔓延した。接触のあった猫との間には混血の猫も産まれ純粋な血統が乱れていった。全て人間が持ち込んだことだ。以前の静かな島には無かった事だ。
人間はヤマネコたちの生活を脅かす敵であり、憎むべき存在なのでしかなかったのだ。
ヤマネコは生まれてきた我が子に、父親である自分の姿を見せる事が出来ない。子供たちは、生涯父親を知らずに育つ事になる。それでも母親がしっかりと守ってくれれば立派な山猫になるであろう。
ただ、今の島では、猫たちだけの力では難しいことであった。
人間がいる限りいつか絶滅してしまう。今まではそう思っていた。
しかし、ヤマネコには希望が見えた。新しい可能性を感じたのだ。
人間達は自ら犯してきた過ちを悔い、ヤマネコを保護する活動をしていることを知ったからだ。
人間が憎しみの対象でしかなく敵だと思い込んでいた。恨んでいるだけで何も理解しようとしていなかったことを初めて知った。
お互いの事を理解する事がどんなに大切かと言う事。より深く理解することが出来ればそこに友情が生まれ、絆が出来る。
これこそが一番大切な事だったのだ。
繁殖期以外は単独行動をするヤマネコにとっては必要のないことであった。家族を守り育てることが出来れば何の不自由もなかったからだ。
しかし、今の島での現状を見れば人間との共存することがいかに重要な事かが理解できる。
自分を最後に、あんな悲劇は最後にして欲しいと切に願うのであった。
レオは静かにヤマネコを見守っていた。
ヤマネコの頬から流れた涙が岩を伝ってレオがいる近くに流れてきた。
涙の雫が岩から落ちた場所には綺麗な小さな花が開き始めた。
ヤマネコの見たい物が見えた事をレオは確信した。
「見えた。俺の子が生まれていた。元気にしている。母猫と山の奥で過ごしている」
ヤマネコが涙を振り切るようにしてレオを振り返った。
「そうですか。生まれてくる家族がいたのですね。見届ける事なく現世を去る原因を作った人間を恨んでいたのですね」
レオは気の毒そうにヤマネコを見つめていた。もう少し生きていれば我が仔と対面する事が出来たのであろう。レオの胸にも切ないものが込み上げてきた。
レオは悲しみを湛えた目で静かにヤマネコを見つめていた。
ヤマネコにもレオの気持ちが通じたのか、大きくうなづいた。
「分かってる。仔猫だな」
前を向き、静かに目を瞑るヤマネコだった。
つづく
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いかがでしたか、今回のお話。
ヤマネコが暮らしていた島の様子が伝わりましたでしょうか。
人間が外から入り込まなければ自然のままで残っていたかもしれません。
でも、人間の手が入った以上は保護する活動も重要です。
上手くお互いが共存できる島になって欲しいですね。
さあ、次回はいよいよピースの現世での様子が分かります。
お楽しみに。
この前の日曜日はシャンプーをされました。

お天気が良かったので、おなかも虫干しです。
Byホワイト
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