一
見返り岩にヤマネコオが戻っていた。乱れた呼吸を整えるように大きく息を吐き出している。
岩の上に上り静かに瞑想に入っていく。
重く沈んだ空気があたりを包んでいる。月明かりもなく、夜目が利かないと何処にいるか分からないくらいだ。
遅れてきたレオは邪魔しないように、岩の下にそっと控えた。
「見えてきた」
ヤマネコはレオが到着したのを肌で感じていた。
脳裏に見えてきた現世の様子をそのままを伝えている。最初に見返り岩に来た時とはまるで違う静かな落ち着いた声だ。
「さっきと同じだ。女性が仔猫の手に自分の手を重ねている。後姿で顔は見えない」
レオはヤマネコの気持ちを乱さないように黙って聞いていた。
「もう一人の白い服の男が何か持って仔猫に触っている。二本の黒い管が男の耳に繋がっている。分かるか、何か」
「聴診器でしょう。白い服の男性は、獣医です。仔猫の心臓の音を聴いているのではないでしょうか。あまり良くない状況かも知れません。他に何が見えますか」
レオは静かに聞き返したが、ヤマネコは沈黙したままだ。口から飛び出しそうになる不安をぐっと我慢した。
数分の時が数時間にも感じられた。
しばらくすると、やっとヤマネコが口を開いた。
「泉の方は準備できているのか」
目をつぶったままレオに聞いている。
「はい、チップたちはもう着いて準備万端整えていると思います」
泉の様子を見てきたわけではないが、泉にはチップがいる。間違いはないだろう。
「そうか、人間たちの動きが慌しくなってきた。女性が両手で仔猫の手を握り締めている。白い服の男が仔猫の胸に聴診器を当てたままだ」
どうやら現世での仔猫は深刻な状況にあるらしい。レオは緊張した面持ちでヤマネコの話を聞いている。
「男性が女性の肩をそっと叩いて何か言ったぞ。あっ、ベットに顔を伏せてしまった」
ヤマネコの声が緊迫感を帯びている。
「いよいよ、仔猫が危ないのかもしれません。女性から目を離さないように」
レオが緊張した面持ちで告げていた。
つづく
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いかがでしたか、今回のお話。
今回はちょっと短めでしたね。
ラストスパートに向かって呼吸を整えているところです。
実は、このお話の中では人間の描写は書かないつもりだったらしいです。
でも、ピースがこのような状況になった事を伝えるには書かざるを得なかったみたいです。
人間と猫の交流を描くという点ではお話が深くなっていくと思います。
次回から二回に渡り現世でピースの側にいる人間の事が出てきます。
チップたちはちょっとお休みです。
その後にいよいよ現世へ帰る事になります。
今年も残り少なくなりつつあります。
お話は年内に完結するのでしょうか。
次回もお楽しみに。
今年も寒くなり、車庫猫ちゃんが戻って来ました。

お隣のアパートの方に餌をもらっているようで、夏の間はアパートのサッシの前にいつもいました。
寒くなって家の車庫に戻って来たのでしょうか。
不思議な猫です。
玄関先に寝ていました。
Byホワイト
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