新しいおうちへの慣らし方ガイド

猫の譲渡が決定した際には、譲渡の日時や初日の対応方法などが重要となります。日時に関しては募集者と相談し決定しますが、飼い主として知識として理想的な状況を把握しておくことが望ましいです。

家の中はどのように整えるべきか?

猫を飼う決断をした時点から家の中の整備が必要となります。部屋を清潔に保ち、危険な物品や猫にとって有害な植物を置かないようにしましょう。植物に関しては、猫が食べることが可能であるものの中には危険なものが存在します。家に危険な植物がある場合は、他の人に譲るか、猫が触れない場所に移動させるなどの対処が必要です。一般的に与えてはいけないものについては、インターネットで調べるか、ネコジルシでも猫に与えてはいけないものでいくつか紹介をしているので、確認しておきましょう。

家の中はどのように整えるべきか?

家の中が整理整頓された後、猫が落ち着けるスペースを用意しましょう。

猫が初めて家に来た場合、最初はあまり接触しないことが基本です。環境の変化に敏感な猫にとって、安全だと認識できる場所を確保しておくことが重要です。すぐに慣れる猫もいれば、数週間かけて徐々に慣れる猫もいます。最初はケージから出てこない猫もいるため、無理をせず慣れるのを待ちましょう。

猫が安全だと認識できるように、例えば部屋の隅にケージを置き、中にトイレ、水、食事、寝床、猫の匂いがついた毛布などを配置します。さらに、ケージの上に毛布をかけて中を暗くすると良いでしょう。足腰が弱い子猫の場合、基本的にこのスペースを安全だと認識させ、飼い主が見守ることができる時にケージから出られるようにしてあげてもいいでしょう。

保護主さんと連携して、猫が安心できる環境を整えましょう。

最適な譲渡時期

猫を譲り受ける最適なタイミングは、「2日~3日間十分に様子を見られる状態で、午前中にお迎えできる状況」です。

猫は確かに「自由気まま」「マイペース」なイメージが大きいですが、繊細で環境の変化に敏感な生き物であり、ストレスがかかって疲れていることが考えられます。

猫は自分の弱み、体調不良を隠してしまう生き物でもあります。そのため、譲渡直後に体調に異変がないか様子を見る時間を確保し、何かあった時に動物病院に連れていくためにも、午前中に譲渡を行うことが望ましいです。

譲渡直後の対応

譲渡直後は、猫に無理に接触せず、キャリーバッグやケージに入ったままで放っておいてあげましょう。無理に外に出すことは避け、猫が自分で出てくるのを待ちましょう。

また、初日は猫に大勢の人に会わせないように注意しましょう。家族がいる家庭であれば人通りが少ない部屋にケージを置く、連れてくる前に家族と話しておくなど、猫を思いやるようにしましょう。

譲渡直後の対応

猫が慣れ始めたら、徐々に接触を増やしていきましょう。猫の様子を見ながら、少しずつ触れ合いの時間を増やし、信頼関係を築いていくことが大切です。猫がストレスを感じると、健康に悪影響を与えることがありますので、猫の様子に注意しながら適切な距離感を保ちましょう。

慣れるまでにやるべきこととは?

家に猫を迎え入れた後、猫は警戒心が強く、すぐに遊びたがったり、ゴロゴロと喉を鳴らすことはほとんどありません。

猫との関係を急ぐと逆効果となることもあるため、ゆっくりと、焦らず、気長にお世話をすることが大切です。

ケージでお世話を行いましょう

猫が新しい環境におびえている可能性があるため、隠れる場所や落ち着く場所が必要です。そのため、最初の頃はケージの中でお世話を行うことが望ましいです。

ケージは猫にとって安心できる場所であることが重要ですが、同時に人間が一緒にいる環境にも慣れさせる必要があります。人が多くいるリビングなどに設置し、ケージの中から人を観察できるようにしてあげましょう。

ケージは広めで2~3段の高さがあるものを選び、トイレ・ベッド・フード・水・爪とぎを用意します。臆病な猫の場合は、ケージに毛布やタオルをかけて徐々に見える範囲を広げる方法が効果的です。

猫の性格や環境によってケージのサイズや高さ、慣れさせるまでの段階が異なるため、保護主さんと事前に相談しておくことが望ましいです。

最初は干渉を避けましょう

新しい環境にやってきた猫は不安を感じています。「早く仲良くなりたいから」と触ろうとしたり、抱っこしたりすることは避け、必要以上にかまわないようにしましょう。

最初は食事やトイレ清掃を同時に行うなど、接触回数を最小限に抑え、必要最低限のお世話にとどめることが重要です。また、猫にとって目が合うことは威嚇と捉えられることがあるため、目が合わないように注意しましょう。

ゆっくりと時間をかけて仲良くなることを心掛け、猫に「ここは怖くない場所」と認識してもらえるように努めましょう。

ケージに慣れるメリット

ケージに閉じ込めることが可哀想だと感じるかもしれませんが、猫にとっては四方を囲まれた空間が安心できる場所です。

逆にケージに慣れていない猫は、病院に入院した際や安静が必要な時、災害時などでケージ生活が必要となった場合、周囲の環境の変化やケージそのものがストレスになります。

ケージ内が快適で安全な場所であることが大切です。清潔に保ち、暮らしやすい環境を整えることはもちろん、しつけのためにケージに閉じ込めたり、ケージにいる時に叱る、無理矢理入れるなど、ケージに嫌なイメージがつくような行動は避けましょう。

猫が慣れたかどうかの見極め方

猫は個体差があり、警戒心が強い子もいれば慣れやすい子もいます。慣れた状態で現れるサインについて詳しく解説し、飼い主がどのように対応すべきかを考察してみましょう。

慣れるまでの期間はどれくらいか?

猫の慣れる期間は個体差が大きく、すぐに新しい環境に適応する子もいれば、時間がかかってしまう子もいます。
友好的で好奇心旺盛な猫は数日で慣れることもありますが、警戒心が強い猫やシャイな猫は数か月かかることもあります。

猫との関係構築には最低でも2週間以上の時間が必要とされています。焦らず、猫が慣れるまで根気強く見守ってあげてください。

慣れてきたサインとは?

猫が慣れてきた時に現れる兆候がいくつかあります。猫の性格や個体差により、いつ頃現れるかは一概には言えませんが、以下の兆候を参考にしてみてください。

  • ご飯を人前で食べるようになる

    警戒心が強い猫は、安心できると判断するまで食事を摂取せず、トイレにも行かないことがあります。

    人間の目の前で食事を摂取するようになったら、猫は飼い主を信用し始めている兆候です。しかし、まだ完全に信用しているわけではないため、引き続き見守ることが重要です。

  • ケージから出たいという態度を示す

    最初は威嚇する猫もいますが、慣れてくると威嚇の頻度が減ります。

    ケージの外に出たいという態度が見られたら、まずはケージのある部屋を探索させ、徐々に行動範囲を広げていくことが望ましいです。ケージから出す際は、扉を開けて猫が自ら出てくるのを待ちましょう。

    この時も過度な干渉を避け、猫が近づいてきたたり遊びを求めてきた時にだけ一緒に遊ぶ程度に留めておきましょう。

    行動範囲を広げる際には、立ち入りが困る場所への侵入を防止したり、電源コードなど噛んでしまうと困るものは隠したりカバーをつけたりして、事前に対策を講じておくことが重要です。

  • 様々な場所で寝るようになる

    寝る行為は無防備な状態を意味します。ケージの外で寝るようになると、猫はかなり慣れてきていると言えます。

    この段階でも、猫が近づいてきたら撫でてあげたり、遊びを求めていなければ放っておくなど、猫のペースに合わせて接することが大切です。

猫に早く懐かれる方法と注意点

猫に早く懐かれるコツは一概には言えませんが、嫌われないように注意すべき点や、猫にストレスを与えず依存を防ぐ方法があります。以下に、猫との関係構築のためのアプローチと注意点をまとめます。

積極的にかまわず、適度な距離を保つ

猫が新しい環境に慣れてきたとしても、人との距離はまだ存在します。猫が安心できる空間を提供し、猫の要求に応える程度に留めておくことが重要です。

ただし、猫の要求にすぐに反応しすぎると、猫がそれを当然だと認識し、飼い主に依存したりストレスを感じることがあります。適度な間隔で反応し、猫に我慢を覚えさせることも必要です。

猫に嫌われる行動を避ける

大きな声や音を出す、追いかける、隠れている場所から無理に引きずり出すなどの行為は、猫に嫌われる原因となります。
また、猫は匂いに敏感であり、嫌がる匂いが存在します。アロマなどは猫に悪影響を及ぼす可能性があるため、猫が触れないように注意してください。

猫に対して優しい声でゆっくり話しかけたり、猫のペースに合わせる、過度にかまわないようにすることで、猫に好かれやすくなります。

食べ物を与える

猫は美味しいものを提供してくれる人を好む傾向があります。手から与えることが難しい場合は、スプーンで分けて与えるなどして、徐々に距離を縮めましょう。

ただし、過剰な量や種類を与えることは猫の健康に悪影響を与えるため、注意して与えてください。

段階的に遊びを試みる

猫と遊ぶことで、警戒心を解いて一気に慣れる可能性があります。最初は状況を見ながら、猫じゃらしやおもちゃで誘導してみましょう。最初は興味を示さなくても、慣れてくれば自然と遊んでくれるようになります。

この際、猫が遊びに興味を示さない場合でも、無理におもちゃを押し付けたり、大きな音や声で注意を引くような行動は避けてください。

猫のペースを尊重しましょう

慣れやすい猫もいれば、慣れるまでに時間がかかる猫もいます。懐くまでに想像以上の時間がかかることもありますが、これは猫の個性や環境への適応力の違いであり、仕方のないことです。

他の猫と比較せず、お世話をしながら根気強く慣れるのを待ちましょう。猫のペースに合わせて関係を築くことで、最終的には信頼関係が生まれ、猫との素晴らしい絆が築かれます。

しつけに関して

譲渡直後は猫の様子を見ながら慣れさせていくことが大切ですが、しつけは初日から始めましょう。トイレの場所や立ち入ってよい場所、禁止エリアを教えないと、望まない場所で用を足されたり、立ち入りたくない場所に侵入されることもあります。

まずトイレについてですが、寝起きや食後などに猫が落ち着かない様子や砂をかく動作、物を探すような仕草が見られたら、トイレに行きたい合図です。そのような動作が見られたら、すぐにトイレに誘導しましょう。これを数回繰り返すことで、猫はトイレの場所を覚えます。もしトイレ以外で用を足された場合、怒らずに速やかに掃除し、臭いが残らないように注意してください。臭いが残ると、その場所をトイレだと誤認することがあります。

また、立ち入り禁止の場所や危険な場所などを教える際にも、猫に怒ることは避けましょう。怒ると、「突然大声を出す人」「攻撃してくる人」と認識され、猫に嫌われる可能性があります。代わりに、猫が禁止エリアに近づこうとすると大きな音が鳴る仕掛けや、水鉄砲の水が飛ぶようにして、「ここに行くと嫌なことが起こる」と猫に理解させましょう。

ネコの習性を知りましょう

猫との生活では予想外の行動に驚いたり戸惑うことが多くあります。個体はあるので100%当てはまるわけではありませんが、飼い主にとっては迷惑行為に思えても、猫にとっては当然の行動であったり、愛情表現である場合もあります。猫の性格や習性を学ぶことで、ふと目にした猫の行動が、当たり前の事なのか、あり得ない事なのかを見分けることができ、猫の体調不良等のサインにも気づきやすく、結果的に日々安心して猫と暮らすことにも繋がるわけです。

猫の習性を知っておきましょう

おみやげ行為

ネズミや虫などの獲物をくわえ、飼い主のそばに持ってくる「おみやげ行為」という物があります。隣人や家族に同じことをされた場合は立派な嫌がらせかもしれませんが、猫にとっては狩りができない飼い主に餌を分け与える、もしくは狩りができる事を褒めてほしいなどの理由で行うものと考えられています。

真相がいずれにせよ、猫にとってはプレゼントを贈るような行為ですから、騒いだりせずにしっかり褒めてあげて、猫が見ていないうちに隠したり、興味をなくした後にこっそり処分するというのが模範解答のようです。一方で、知らずに叱ってしまった場合、せっかくプレゼントをしたのに怒られてしまったと、猫を混乱させてしまうかもしれません。場合によっては満足していないと思い更に獲物を持ってくる場合もあるので、しっかりと褒めてあげるようにしましょう。

夜中の大運動会

夜間になってから部屋を走り回り大暴れする、「運動会」などと呼ばれている行為もあります。よく猫は夜行性と言われていますが、実際狩りをしていた時代の名残からか、暮れ方・明け方が一番活発となるのです。日中は飼い主が家におらず、その間ケージ飼いにしている場合など、遊ぶものもなく暇なので体力が使えず、夜になってから発散しているというケースも多いようです。私たちにとってみればなるべく静かにしてほしい時間なのですが、猫からすれば待ちに待った学校の休み時間のような感覚なのかもしれません。

一般的な対策として、日中に猫が遊べるキャットタワーなどの遊具を設置する、飼い主が帰宅してから寝るまでの時間は精一杯遊ばせる、夜は暴れるものと割り切ってマットなどを敷いて音を軽減する、などが挙げられます。「静かにしろ」と叱ったところで、興奮している猫はさらに興奮してしまいますし、「夜暴れると飼い主に遊んでもらえる」と困った学習をする場合もあります。

著者紹介

上杉 華子(猫コンシェルジュ)

猫に関する専門家として猫の知識と経験が豊富で、猫の飼い主たちから高い評価を受けており、
猫の行動学や猫種の特徴、猫の健康や栄養管理など、猫に関する様々なトピックについて情報発信。
猫に関する情報が科学的根拠に基づき、そして分かりやすい言葉で説明していることを心がけ、猫の世話やしつけ方法、猫の病気や予防策についてのアドバイスを提供しています。
幼いころから猫を飼って育った自身の経験をもとに情報発信を行い、保護猫の里親探しや猫の福祉向上を目指して活動中。