第67回 御大登場「水木サンの猫」
あけましておめでとうございます。
今年も何卒えりかのコラムを
よろしくお願いいたします。
09年も無事にあけました。
無事にあけて一回目。
一発目のえりかのコラム。
今回のご紹介は
「水木サンの猫」のご紹介。
ごゆっくりご覧ください。
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年明け早々どうもすみません。
ほんとにすいません。
よりによって水木しげる御大の
お作をチョイスしてしまうだなんて。
御大の作品は、なんていうか、こう、
年明けに向くか向かないかと言われたら、
一応悩んだふりをして「向かない」という
判断を下してしまわなければならない、
いろんな意味でのクオリティの高さ。
遠回しに言うのも何ですから
はっきりと言ってしまえば、
年明け早々のめでたい雰囲気には
ちょっと裏口からどうぞ的な
雰囲気なわけです。
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御大の作品から漂う、
おどろおどろしい雰囲気。
魑魅魍魎どもが跳梁跋扈する、
怪しげな世界を描く大家。
ほら見なさい。
ちょこっと紹介してみただけでも、
「おどろ」だの「魑魅魍魎」だの
「怪」だの、年明けには向かない
言葉の羅列がばんばん出てきます。
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「魑魅魍魎」なんて、
鬼がいっぱいですからね。
ほんと年明けに向かない。
しかも「跳梁跋扈」まで
ついてるとなれば、
ますます年明けに向かない。
たくさんの鬼が飛んだり跳ねたり
してるわけですからね。
つくづく年明けに向かない。
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けどいいんだ。
書いちゃうもんね。
書いちゃうんだもんね。
年明けって言ったって
そろそろ1月も半ば。
おせちや正月関係の残り物には
とっくに飽きて、カレーおいしいね
なんて言ってる時期ですよね。
体だってそうなんだから、
気分だって切り替えなきゃ。
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というわけで、新年一発目の
コラムのこの選択は、
あながち間違ってもいない、と
いうわけなのです。
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そういうわけなので、肝心の
「水木サンの猫」の中身。
御大がお描きになった、
「猫」をテーマにした漫画短編集です。
御大が描くぐらいだから、
生半可なモンじゃありませんよ。
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おどろ度が半端じゃない。
おどろ耐性が無い方は、
チラリとページを捲っただけでも
「やられたっ」と叫んでしまう
くらいのおどろおどろしさ。
おどろ好きにもおどろ嫌いにも
たまりませんね!
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それにしても、特筆すべきは
御大の猫への理解度の高さ。
この本に出てくる猫は、
殆どが人間よりも上位。
この本をちらっと読んでた友達が
「ちらっと読んでみたら、
猫にこき使われてる人間がいたよ」
と言ってくる程の上位ぶり。
ほんとですよねぇ。
猫って人間より上位っぽい。
何かの役に立つわけでもなく
芸をするわけでもなく、
エサと鳴かれればエサを出し、
撫でれと鳴かれれば撫で、
出たいと鳴かれればドアを開け、
アレだコレだと鳴かれれば
アレやコレやと世話を焼き、
これが人間より上位じゃなくて
何だってんですかねぇ。
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御大はその辺シビアです。
かわいいゝ猫ちゃんよ、なんて
絶対に描かないながらも
「猫と人の真理」を
的確に表してます。
その他にも、猫の得体の知れなさや
刹那性、はたまた儚さなんてのも
読み取れる話もあり、猫ってほんとに
使える素材だと確認した次第。
モチーフに鍋島や犬の早太郎の話を
合体させたものとかもあり、
面白いことこの上ない。
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この全体に纏った雰囲気が
実にたまらない。
もちろん、皆様お馴染みの
水木キャラも勢揃いしてますよー。
実に堪えられない一冊でした。
同じ趣味の方、是非おすすめですよ。
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水木サンの猫
さまざまな猫たちの姿を、猫大好き“水木サン”が生々しく劇画化した名短編全17篇。猫に飼われる人間たちの末路とは? これを読めば猫娘のルーツが判る! 全国の猫愛好家と水木ファンに贈る最適の一冊!