第90回 正月休みの最終日に「魔法の猫」
とうとう今年も今日で終わり。
今年は皆様にとって
良い年だったでしょうか。
ゆく09年を惜しみつつ、
くる10年を楽しみに
今日の大晦日を過ごしましょうか。
今回のえりかのコラムは
「魔法の猫」のご紹介。
ごゆっくりご覧ください。
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題名だけ見ると、
あ、ファンタジーっぽいな、と
思わせられるこの本。
実は短編集なんです。
実は、って前置きする程の
ことでも無いのですが、
実は短編集なんです。
スティーブン・キングや
U.K. ル・グィン等外国作家の、
猫をテーマにした短編が
17編も載っています。
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で、題名が「魔法の猫」
じゃないですか。
なんだか、とってもステキな
魔法を使える猫が大活躍!
みたいな印象じゃないですか。
あ、それならちょっと
読んでみたい、と思った方も
いるやもしれません。
短編集ってことで
肩もこらなそうだし、
夜寝るときとかに読んで
みようかな、とも思った方も
いるかもしれません。
そんな方には、ほんと謝らなきゃ
ならないんですごめんなさい。
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本好きな方なら、前述の
「スティーブン・キング」や
「U.K. ル・グィン」で
察しはついてると思いますが、
この方達が書くモノは、
どうしたって「魔法が使える
ステキな猫が大活躍!」とは
いかないんです。
いや、魔法が使える猫が
出てきたとしても、
まず間違いなくステキな猫では
ないだろうし、物語の
方向性だっておどろ方面に
進んでいくと思います。
まあ、この「魔法の猫」には、
そういった類の猫の話が
詰め込まれている本と考えて
いただければ助かります。
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それにしても、ここまで
題名と中身が違う本も珍しい。
あらすじ紹介をきちんと読むと
「ホラー、SF」と書いて
いるのですが、「魔法の猫」なんて
見てしまったらそりゃステキ方面に
期待しちゃうってもんですよねぇ。
それがまたなんとまあ、
猫好きが読むのには
かなりキツい話ばかり。
ホラー系の話は言わずもがな、
SF系の話なんて、もう
なんと言えばいいのでしょうか。
皮肉、って言ってしまえば
一言で済みますが、
なんとかして世の中を
斜に見てやろうという
この並々ならぬ情熱。
猫好きにとっても、
そうではない人にとっても
耳が痛く、そして心が
温まらない話が盛りだくさん。
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じゃあ、なんでそんな本を
紹介するのかとお怒りの皆様。
耳が痛くて心は温まらず、
読み終わったあとの後味は
最高に悪いけれど、それでも
この本の、先を読ませる力は
すごいんです。
ああもう気になる。
ああこの先どうなるの。
んで、短編だから
比較的すぐ読み終わっちゃう。
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んで、後味悪くて怖くて
いろいろ考えさせられて、
この先なんて読むもんか、と
思うんだけどなぜか読んじゃう
この一冊。
年末に紹介するのには
ちょーっと迷いましたが、
正月休みのだらけた気分の時に
読むのにはぴったりなんじゃ
ないかな、と思いまして。
猫って可愛いだけじゃない。
いろいろな見方があるもんだ、と
心底思います。
正月休みの終わり頃には
ぜひこの本を。
いろいろ、しゃっきりしますよ。
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魔法の猫
4000年にわたって人間と共存しながら、いまだに謎めいた雰囲気を漂わせる不思議な生きもの―猫。われわれの想像力を刺激してやまないこの動物をテーマに書かれた膨大な小説のなかから、現代を代表する猫ストーリーを厳選。S・キング幻の単行本未収録作品をはじめ、ファンタジー、ホラー、SFの多彩な分野から集まった、かしこい猫、かわいそうな猫、こわい猫、たのしい猫が繰り広げる大饗宴!猫アンソロジーのスタンダードとして英米でロングセラーを記録したファン必携の書、全17編。