第12回 とても優しい絵本です「空飛び猫」
猫が空を飛ぶ話ですよ。
えりかのコラム12回目。
猫に翼が生えていて、空を飛んじゃいます。
すいすいと上手く飛べるってわけでもありませんので、
この4匹のこねこ、ぜひ皆様に見守ってもらいたく思います。
では、えりかのコラムはじまります!
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ジェーン・タビーお母さんが生んだこねこ達。
その4匹についていたのは、翼。
翼の生えた4匹のこねこが生まれました。
けれども、ジェーン・タビーお母さんは子育てに必死で、
そんなものに思いを巡らすヒマはありません。
そんなこねこ達も、親離れの時がやってきて、
タビーお母さんと離ればなれになり
自分の足で、その翼で旅立つのです。
これは、そんなお話。
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この本ね、洒落ております。
某3分クッキングなどで使われている、
うさぎのピーターさんの絵本、ありますよね。
あの本と、同じ香りがします。
読んだこと無い方でも、あの挿し絵を思い出せば
すぐにはいはいと分かっていただけるかと思います。
あの、緻密に描かれた、どう見ても日本のそれではない絵。
日本画が緻密じゃないってことじゃありませんよ、
なんだか、ああいう画風って外国の方特有じゃないですか。
S.Dシンドラーさんの挿し絵がとてもいい雰囲気なんです。
ちょっとおどろおどろしいような、
でもどこか心の奥底が惹かれるあの緻密で繊細な絵。
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この「空飛び猫」の挿し絵も、そんな雰囲気なんです。
これが一冊本棚にあるか無いかじゃ大違い、
それだけの雰囲気を持った本です。
挿し絵もさることながら、文章がまたエスプリが効いてます。
小粋な物言い、とでも言いましょうか、
洒落ている、としか言えない文章です。
子ども向けの本なのですが、そりゃこんな文章を
小さい頃から読んで育ったら、平気な顔して「愛してる」と
言えるようになるわ、と納得できる文章。
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猫が翼を持っている。
挿し絵で見ても違和感無く描かれています。
その、あまりの違和感の無さに、自分ちの猫をみて
「あれ、羽根無いじゃん」とつい思ってしまう程。
鳥のようにうまくは飛べませんが、それなりに
飛べちゃいます。姿だってなんだか翼があればかっこいい。
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翼があれば、いいことづくめだと思うでしょ。
けれど、翼があるせいで鳥達には迷惑がられ、
人間には驚かれ、いいことばかりじゃありません。
4匹のこねこ達は、助け合いながら生きていきます。
そんな様子を、小洒落た、あたたかく優しい文章で
翻訳したのは、村上春樹さん。作家の村上春樹さんです。
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彼の文章は、どこか生々しい部分があって
少し苦手だったのですが、この本を読んで
こんなに ふうわり、とした文章を書けるのね、と
眼からウロコ。お子さんがいるご家庭では、
ぜひこの本、声を出して読んであげてください。
心地良いリズムで、読みやすいように聞きやすいように
計算されています。
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読んだあと、なんだか幸せになれました。
綺麗な文章と、素晴らしい情景描写。
文章に、とげが無いんです。
ささくれだったものが無い。
濃厚だけど、するりと心に入ってくるんです。
上質の絹の様な、上等なビーフシチュウの様な。
肌触り、舌触りという言葉があるように、
この本はとても「心ざわり」がいい本です。
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心を静めたい時、少し笑顔が足りない時。
この本はそんなあなたを応援してくれますよ。
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空飛び猫
ル=グウィンの素敵な猫のおはなしを村上春樹が心をこめて翻訳。
表紙を一目見たときから、僕はこの本を翻訳しようと決心しました。だって木の枝にとまった四匹の猫に翼がはえているのだから、これはどうしたってやらないわけにはいかないですよね。――訳者あとがきより
次回は7月23日更新予定!次回も是非見てくださいね!